開戦 ZAC2099



11


 最初に現れたゾイドは脚部に改装の跡が見えるアタックコングだった。
 そのアタックコングは山岳地帯用の迷彩シートを被っていた。迷彩シートからはまだ銃口から硝煙を上げている多銃身機関銃が突き出されていた。
 機関銃によってめくられた迷彩シートの中には憲兵隊用の漆黒に塗装された装甲が見えていた。
 アタックコングのコクピットは本来露出しているはずだが迷彩シートは完全にコングを覆っていた。その代わりに頭部の辺りには増設されたセンサが群がっていた。
 おそらく迷彩の効果が薄れるのを嫌ってセンサだけを露出させて、操縦に必要な情報は全てコクピットに転送しているのだろう。
 機関銃さえ突き出していなければ、一見しただけではただの岩石に見えないこともなかった。
 アタックコングの後ろには同じような迷彩シートに包まれたゾイドがいた。
 その機体は完全に迷彩シ−トに覆われていたが、やはり大きさからするとアタックコングのようだった。
 マッケナ大尉がそこまで観察したところで、軽い爆発音がした。
 するとアタックコングの前にあった岩が砕け散り、背後、というよりもは内部からやはり黒く塗装されたゴーレムが出現した。
 こちらにはほとんど改造のあとはなかった。ただ、やはりセンサは強化されているらしく通信用とは違うアンテナや光学センサのレンズが頭部に増設されていた。
 出現とほぼ同時にゴーレムは肩に装備されている40ミリガトリング砲を発砲した。さすがに40ミリ砲の威力は絶大だった。
 アタックコングの装備している機関銃ではバトルローバーのパイロットを吹き飛ばすので精一杯だったが、ゴーレムの攻撃に曹長の前にいたバトルローバーが文字通り粉砕されていた。
 搭載している機関砲の砲弾が命中したのかそのバトルロ−バーは次の瞬間爆音と共に吹き飛んでいたのだ。
 だが、その爆発を合図にしたかのように生き残っているバトルロ−バー二機が散開して遮蔽物を探しながら反撃に出ようとしていた。
 いつの間にか山岳ゲリラが去っていった方向から増援らしきディノチェイスが二機現れていた。
 タイミングを合わせるようにしてディノチェイスとバトルロ−バーは射撃を開始しようとしていた。ゴーレムとアタックコング二機は攻撃を終えてから移動中していたから反撃には時間がかかるかもしれない。
 そう考えた時、思わずマッケナ大尉は拳銃を抜いて手近なバトルロ−バーに発砲していた。
 大型の拳銃とはいえ威力は小さいものだった。事実パイロットの後頭部を狙ったのに重装甲のパイロットスーツを貫通する事は出来なかったようだった。
 だがその牽制だけで十分だった。気勢をそがれたバトルローバーのパイロット達はゴーレムへの射撃を一瞬躊躇ってしまった。
 結局ディノチェイスからのものだけになった攻撃は中途半端なままで終了した。
 それでもアタックコングのうち一機が損傷してその場に伏せていた。
 だが射撃は可能らしく新手のディノチェイスにむけて阻止攻撃を途切れることなく敢行していた。
 そしてディノチェイスが足止めされている間にゴーレムの第二射が行われた。
 その攻撃でさらに一機のバトルローバーが脚部を粉砕されて転がり込んだ。
 遼機を全て失ったバトルローバーはディノチェイスのいる方向に向って全速で逃げ去ろうとしていた。
 だがディノチェイスと合流して後方に駆け出したところで逃走は頓挫した。
 マッケナ大尉の目には渓谷の影から音もなく現れたウォンバムが映っていた。
 そのウォンバムはゆっくりと逃走する三機のコマンドゾイドの後ろにつくと両翼部に懸架されたロケット弾ポットを発射した。
 谷底の道路に降り注いだロケット弾は、ある物はバトルローバーとディノチェイスの脚部を破壊し、あるものはパイロットごと操縦機器を吹き飛ばした。
 ロケット弾の弾着と爆発が引き起こした爆煙がおさまった時、動くものはどこにも見えなかった。
 呆然とその様子を見ていたマッケナ大尉は視線を感じてふと顔を上げた。
 ゴーレムがコクピットハッチを開けて、中のパイロットがこちらを見ていた。
 ヘルメットを取った憲兵隊のパイロットは何の感情も浮かんでいない目でマッケナ大尉を見つめていた。

12


 その日の夜はグラム湖からの冷えた風が吹き荒れていた。この辺りは位置的にはグラム山脈にあってもグラム湖に近いから気候は湖に大きく左右されるようだった。
 マッケナ大尉は野戦服の上に羽織っていた古びた軍用コートの襟を無意識のうちに掻き寄せた。
 目的地である憲兵隊の野営地まで後数分のはずだった。

 連隊司令部中隊が陣地を築いている場所から、僅かに離れたところに憲兵隊の野営地はあった。
 連隊との連絡を密にする為にそうした場所を選定したのかと思ったのだが、マッケナ大尉はその考えが誤っていたことに気が付いていた。
 距離だけを見るとたいした事はないように見えるのだが、実際には歩きづらく、周囲は天然の要害となっていた。
 このあたりは開けている平坦な土地がちょっとした森林地帯になっていたから憲兵隊の野営地は異常とも言えた。
 おそらく憲兵隊は連隊との連絡などではなく、単純に陣地構築が容易であるからその場所を選んだのだろう。
 ため息をつきながら、マッケナ大尉は司令部で連絡機同乗を断ってきたのを悔やみ始めていた。
 憲兵隊、というよりもは周囲の部隊の陣地構築を視察しようとしたのだが、少なくとも憲兵隊の陣地は堅牢なものであるようだった。
 ふと視線を感じてマッケナ大尉は顔を上げた。周囲をさりげなく見回してみたが、怪しい人影はなかった。
 首をかしげながら歩き出そうとしたとき、唐突に前方の茂みから声がかかった。
「参謀本部のマッケナ大尉殿、ですな」
 慌ててマッケナ大尉が懐中電灯を茂みに向けると、そこには老練な雰囲気を持つ士官が敬礼をしながら立っていた。
「失礼、小官はグラム湖派遣憲兵隊指揮官、タベ特務少尉です」
 答礼をしながらマッケナ大尉はその男が無感情な目を浮かべていたゴーレムのパイロットであることに気が付いていた。
 その視線に気がついているのかいないのか、あの時と同じ無感情な目でタベ特務少尉はマッケナ大尉を見ていたが、不意に振り返って歩き出した。
 自然とマッケナ大尉がそれを追いかけるようになった。歩いていく方向から見るとどうやら憲兵隊の野営地に向けて歩いているようだった。
 タベ少尉は黙々と歩き続けていた。その様子はまったく危なげがなく、この地形に熟知している様子がうかがえた。
「失礼だが何故私が誰かわかったのだ」
 沈黙に飽きて唐突にマッケナ大尉が質問した。
「先程連絡に来た連隊本部のものから大尉殿の来意を聞いたからです。その時に大尉殿の所属も聞いておりました」
 タベ少尉は考える様子もなく淡々と答えた。だがマッケナ大尉が疑問に思っていたのはもっと根本的なものだった。
「いや、そうではなくて何故あの場所に私が現れると思ったのだ。すれ違いになるとは思わなかったのか。それに派遣されている憲兵隊の規模はそれほど大きくないと聞いたのだが、少尉を迎えによこせるほどの人員がいたのか」
 一瞬タベ少尉は立ち止まった。別にマッケナ大尉の質問に答えようとしているのではない。周囲に対して鋭い視線で監視をおこなっているようだった。
 ついさっきまで感じていた無感情な部分はどこにもなかった。そこには歴戦の兵士の目があった。
 いきなりの変化にマッケナ大尉が呆気にとられているとすぐにタベ少尉は元の目に戻って歩き出した。
 タベ少尉が聞き取りづらいほどの小声でしゃべり出したのはしばらくしてからだった。
「大尉殿の言われるとおりに憲兵隊の規模はさほど大きくありません。ですから手が開いていた自分が来ました。
 本来なら副官を来させるべきなのでしょうが、我が部隊は軽視されているようですから副官はいません。他の人員は全て陣地の維持と機体の整備をおこなっています。
 それと・・・陣地の周辺にはセンサが設置してあります。ですからセンサに感のあった大尉殿とすれ違いにあることはないと思いました」
 そういわれて慌ててマッケナ大尉は周囲を見渡した。きのせいか今までとは違ったように森林が見えていた。

13


 憲兵隊の野営地はタベ少尉が言っていた通りに明かりが照らされゾイドの整備がおこなわれていた。マッケナ大尉は眉をしかめながらその様子を見ていた。
 一見しただけではわざわざ明かりを照らして見つかりやすくしているようにも見えるのだが、近くによるまでマッケナ大尉は明かりの存在に気が付かなかった。
 ゾイドの整備場はかなり慎重に選定された上で地形を改造しているようだった。
 それどころか憲兵がつめている警戒陣地を通り抜ける時でさえ、タベ少尉に指摘されるまでただの岩にしか見えなかったのだ。
 少なくともこの憲兵隊の中には工兵科出身者でもいるようだった。陣地構築の専門家でもいなければとてもこれだけの陣地はできないだろう。
 しかしマッケナ大尉の目にはいささかやりすぎのような気もしていた。
 現在は大陸の全体的な戦況のために戦線はこの辺りで止められているが、南方での戦局が好転すればこの戦線も大きく共和国側に押し出されるはずだった。
 そして南部戦線の状況を見ればそれは決して遠い未来の事ではなかった。南部戦線では、共和国軍はなぜか貴重なゴジュラスを多数投入してさえ戦線を支えていた。
 何らかの作戦をおこなう前段階なのかもしれなかったが、共和国軍がかなりの無理をしていることは明らかだった。
 そのままでは何らかの錯誤が起こった瞬間に共和国軍の戦線は崩壊するだろう。
 おそらく帝國軍はグラム湖を越えて一気にミューズ森林地帯にまで進攻するつもりだろう。
 だとすればこの陣地は中途半端な位置に貴重な資材と労力を使っている事になる。
 連隊本部でさえ軽易な陣地しか構築していないというのに憲兵隊の陣地はいかにも贅沢なものに見えていた。
 だがマッケナ大尉がタベ少尉にそのことを尋ねると、少尉は一瞬眉をしかめると奥の天幕へと入っていった。
 どうやら説明は中ですると言う事らしかった。ひょっとすると周囲で作業をおこなっている憲兵達に聞かせたくない話なのかもしれなかった。
 何にせよ今はタベ少尉に従うしかなかった。

 天幕の中は以外に整理整頓が行き届いていた。
 中央に設置されているテーブルの上には何かの分別にしたがって整理された書類や地図が入っている大型の図嚢しか置かれていなかった。
 先に入っていたタベ少尉は奥から簡易コンロを持ち出すと水を入れて火をつけた。そして軍装や携行食が置かれている場所から何かを取り出していた。一瞬、マッケナ大尉にはタベ少尉が取り出したのが何かわからなかった。
 別に珍しいものだったというのではない。ただ単にこんな殺風景な天幕で見かけるのが異常だということだ。
 タベ少尉は取り出したコーヒサイフォンをテーブルの上に置くと、さらに奥からコーヒー豆の入っている缶を出した。
 呆然としながらもマッケナ大尉はしみじみとサイフォンを観察していた。
 コーヒーサイフォンは年代物らしくあちらこちらに擦り切れたような傷やぶつけた跡があった。
 だが手入れはしっかりなされているらしく黒く塗装された金属が鈍い光沢を放っていた。
 はにかむような笑みを見せながらタベ少尉がサイフォンにコーヒー豆を入れた。ハンドルを掴むとごりごりとコーヒー豆を挽き出した。いつのまにか濃いコーヒーの匂いが天幕の中を満たしていた。
「前線で何を贅沢なと思われるかもしれませんが、趣味の豆挽きだけはやめられんのです。
 支給される粉のものと比べれば多少の手間はかかりますが不思議と豆を挽いている間は色々と考えられるものなのですよ」
 タベ少尉は楽しげに言っているようだったが、目は真剣なままマッケナ大尉を見ていた。
 サイフォンがコーヒー豆を挽く音を聞きながらマッケナ大尉は今のタベ少尉が暗に陣地構築の事を言っているのだと気が付いていた。
「まさか・・・少尉はこの陣地が長く使われると、この戦線がこの場所で停滞すると考えているのか」
 そうではあるまいと思いながらマッケナ大尉はいった。タベ少尉は無言で挽き終えたコーヒーと沸いていた湯をサーバーにセットした。それが終わるとようやくマッケナ大尉の前に座った。
「どうやら大尉殿は何か誤解されておられるようだ。この陣地を別に長く使おうとはおもっておりません
 むしろこの陣地は必要性があったから造った。それだけなのです」
 マッケナ大尉は混乱しながらタベ少尉の言うことを聞いていた。
 すでにコーヒーの匂いは感じられなくなっていた。

14


 タベ少尉は出来上がったコーヒーを無骨なコッヘルに注ぐとマッケナ大尉の前に置いた。
 おそらく安いものではないコーヒーが入れられるような容器ではなかったが、二人とも気にする様子は無かった。
 自分の分も注ぎ終わるとタベ少尉はコーヒーの入ったコッヘルの水面を見つめながら淡々と話し始めた。
「最初に言っておきますが、この戦争に対して参謀本部の見通しは甘かったと思います。大尉殿も既に理解されておられると思いますが、前線部隊に対しての補給が難しくなりつつあります。輸送を行う為のグスタフの数が足りていないのです。
 古豪の師団ならともかく、最近になって新設された師団では戦闘部隊を重要視するあまり後方支援部隊の充足率が低いままなのです。それ以上に軍団直属の輸送部隊は充足率が低いままです。ですが補給線の長さという点で言うならば十分に全部隊の補給をまかなえるはずなのです。
 それがうまくいっていないのは物資の集束地が後方から動いていないからでしょう。たしか集束地までの輸送をゆだねる筈だった民間の運送会社との契約が思うにいかないというのがその理由でしたな」
 マッケナ大尉は苦虫をかみつぶしたような顔になっていた。
 民間業者との契約がうまくいっていないのにはマッケナ大尉にも心当たりがあるからだ。開戦前にある都市国家で起きた反帝国運動がその原因だった。当時その都市にいたマッケナ大尉は反帝国テロリストの壊滅に成功していたのだが、その後も反帝国運動は思い出したかのように続いていた。
 運送業者としてはテロリストや反帝国のシンパに妨害される危険性のある仕事は引き受けがたいのだろう。
 今でも帝國占領地ではかなりの報酬でなければ運送業者との契約はおこなえないと聞いていた。すでに反帝国運動を取り締まるのは後方の憲兵や各国の治安維持組織の仕事になっていたが、今でもマッケナ大尉はそのことを気に掛けていた。
 しかしタベ少尉の様子にそれを詰問している様子は無かった。
 それどころかタベ少尉の言っていることは参謀本部への批判そのものだった。段々とマッケナ大尉はタベ少尉が何を言いたいのかわからなくなっていた。
 タベ少尉はマッケナ大尉の様子に気が付いているのかいないのか淡々とした調子を崩すことなく続けた。
「前線でも問題はあります。このあたりの共和国正規軍は我が方に押されて随分と大人しくなっていますが、共和国軍は非正規戦に切り替えたようなふしがあります。
 昨日の襲撃もそうでしたがここ最近、山岳民族の動きが活発になりつつあります。その背後には共和国軍の特務機関の影響があることは間違いないでしょう。この特務機関はどうやら開戦前から活動しているらしく、周辺の地形や民族の分布に熟知しているようです。
 先手を打つことで昨日の襲撃は逆にこちらが彼らを殲滅する事が出来ましたが、あれは特務機関のほんの一部に過ぎません。いずれここは帝国の占領地となるでしょう。だが彼らはこの場所に止まり続けて後方で破壊活動を続けることになる。今、根本的な対策をおこなわなければ帝國は前線で勝ちながら後方でそれを帳消しになるような損害をこうむるでしょう。
 ですがそれを取り締まるべき部隊の増派はおこなわれないのです。いまの参謀本部は、いや派遣軍のものもそうかもしれませんが、緒戦での勝利におごっている為に判断が鈍っているとしか思えません」
 言い終わるとタベ少尉は無言でマッケナ大尉を見つめた。
 ここまで参謀本部や派遣軍の批判をしたのだから少尉の覚悟は相当なものであるはずだった。場合によっては更迭や軍法会議に送られても不思議ではないのだ。
 だからこそマッケナ大尉も真摯な思いで答える必要があった。

15


 しばらくの間、天幕の中を沈黙が支配していた。外では憲兵達がゾイドの整備をおこなっていたので、その騒音が天幕の中にも響いてきているはずなのだが、マッケナ大尉とタベ少尉たちの耳に聞こえることは無かった。
 やがてマッケナ大尉がゆっくりとしゃべり始めた。
「補給路の問題だが、ある意味においてそれは避けようの無い、また誰にも責任の無い事態だともいえると思う」
 タベ少尉は僅かに眉を吊り上げた。マッケナ大尉が言い訳でも始めるのかと思ったからだ。だがマッケナ大尉は感情のこもらない口調で淡々と話していた。
 そこには言い訳のような卑屈なものはまるで感じられなかた。ただ単に事実関係を述べているだけだった。
「何故ならば、この世界中どこを探しても他の大陸へ大規模な部隊を進軍させた事のある国は存在しないからだ。帝國は大陸内での統一紛争を除けば、諸外国への小規模な軍事協力がせいぜいだ。
 これに対して共和国も先の大戦では北方大陸に兵を進めるのに成功しているが、これも古すぎるし当時と今とでは戦術が大きく変化している事は否めない。
 ようするにいくら帝國が外征向きの軍を要しているとはいっても、大陸外への遠征に対しては確固たるドクトリンが存在するわけではないのだ。
 もちろん参謀本部や派遣軍司令部では幾度となく机上演習が行われていたはずだ。それにしても戦前に補給まで考えられる参謀は少ないだろう。そこまで考えれば、混乱がこの北方戦線で収まっているのだから、この規模の軍事行動を行っているにしては補給に関する問題点は少ないとさえいえるだろう」
 そこまでいってマッケナ大尉は何かに気が付いたのか遮るように手を伸ばした。
「もちろんこの現状を放置するつもりは無い。今明らかになっている問題については速やかに是正されるべきだ。そうではなくて私は補給路に関する事実を話しただけだ。ようするに誰にも責任は無い、ただこれをどうやって解決するかそれこそが問題だといいたいだけだ」
 そこで話をきるとマッケナ大尉はコーヒーに口をつけた。
 タベ少尉は無言でそれを見ていた。たださきほどよりも眼光が鋭くなっていた。
 まるでマッケナ大尉の話の結論次第では発砲も辞さない。そんな雰囲気がただよっていた。
 だがマッケナ大尉は落ち着き払った動作でコーヒーを飲み終えると淡々とした口調を崩さないままでいった。
「現在の補給体制を脆弱にしているのは民間運送業者の参加が少ないからだ。これさえどうにかすれば物資輸送はだいぶ楽になる。さて、民間業者が帝國の仕事を請け負うとしない理由は簡単だ。要するに治安が悪いからだ」
 そこまでいってマッケナ大尉はタベ少尉の反応を見た。
「・・・つまりは補給路をどうにかするには自分らが職務を果たせば言いという事ですか」
 まるで職務怠慢だとでも言われた気分になったのだろう。タベ少尉は不機嫌そうな顔になっていた。
「そうではない、その山岳民族を恭順させるか、それとも完全に鎮圧出来ればいいのだ。そしてそのことを大陸全体に宣伝する。それで後方で跋扈するゲリラの大半を宣撫することが出来るだろう」
 ゆっくりとタベ少尉は頭を上げた。これはすでに一人の士官が考えるべき範囲を超えているような気がしていた。



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