ZAC2101 アンダー海海戦4




 攻撃隊が輪陣形の中に入ると格段に対空砲火が激しくなっていた。
 対空砲火を減じる為に、ラミウス機を先頭とする編隊は、海面ぎりぎりまで高度を下げていた。それでも対空機関砲を装備したバリゲーターからの攻撃はおさまらなかったが、高角砲についてはそれで攻撃されるおそれはなくなっていた。
 高初速の高角砲による攻撃は、下手をすれば味方を誤射する可能性もあるからだ。その前にこれだけ距離が近いと高角砲の信管も役に立たなかった。
 対空ミサイルも同じように距離が近すぎて有効打を与えることは難しいのか、ほとんど発射されなかった。
 だがそういつまでも輪陣形の中を飛び続けられるわけではない。いずれは鈍重な爆装したレドラーは対空砲にくわれてしまう。その前に、軽快なシューティングスター隊で攻撃目標まで先導する必要があった。
 どうせ攻撃するなら小物よりも大物を叩く。そう考えているのはウルティ達海上部隊だけではなかった。ラミウスが探しているのも共和国軍の象徴であるウルトラザウルスだった。
 しかし対空砲火を避ける為には高度を上げられないから、索敵は困難だった。それでもかなり苦労しながらどうにか輪陣形の中心近くまで飛んできていた。
 いつのまにか海面にはぐれていたブラオキス隊が見えていた。意外とすぐ近くを航行していたようだ。ブラキオスも砲門をウルトラザウルスに向けている。
 これなら旨くタイミングを合わせられるかもしれない。ラミウスは編隊を組む遼機と短く打ち合わせをすると、後続している爆装したレドラーの半数を先導して一旦そこから離れた。
 ラミウス機以外の二機のシューティングスターは、そのまま残りの爆装レドラーを先導して、そのままウルトラザウルスに突っ込んでいた。
 たちまちそこにウルトラザウルス自身の対空砲火と周囲の艦艇からの砲火が集中した。装甲厚からして、レドラーではすぐに撃墜されてしまったかもしれない。
 だがシューティングスターにはレドラーを越える重装甲に加えて、Eフィールドが実装されているから防御力は飛行ゾイドとしては比類ないものを誇っていた。
 ラミウス機と残りの攻撃機は、ウルトラザウルスの周囲を遊弋する直衛らしいバリゲーターを攻撃していた。
 小型のバリゲーターでは、対空火力を増強しているとはいえ、爆装したレドラーの攻撃を受けて無事ですむわけはなかった。護衛機のバリゲーターは次々と沈んでいった。
 直衛のバリゲーターからの砲火が弱まった事で、ウルトラザウルスを攻撃する部隊に対しての圧力はだいぶ弱まっているようだった。
 そして、ウルトラザウルスに対して最初の攻撃機が投弾した。ウルトラザウルスの左舷側に吸い込まれるように、対艦攻撃用の大型爆弾は滑空する。攻撃隊の全員が爆弾の行方を見守っているようだった。
 だが、すぐに期待は落胆のため息に代わった。対艦爆弾はウルトラザウルスを飛び越えて右舷側の海面に落下した。近弾にはなったようだが、対艦用の大型爆弾でも、付近での水中爆発程度ではウルトラザウルスに損害を与えることはできない。
 近弾となった爆弾は、すぐに爆発した。付近を航行しているバリゲーターとブラキオスが、水中爆発によって発生した波にもまれたが、それだけだった。
 間髪をいれずに二機目が投弾した。三機目からは、連続して投弾したから、もうどの爆弾をどの機が投弾したのかわからなくなっていた。
 二機目の投弾とほぼ同時に海面のブラキオスも攻撃を開始していた。標準装備の衝撃砲やリニアレーザに加えて、追加装備されている魚雷発射管までを総動員しての攻撃だった。
 相継ぐ攻撃で、ウルトラザウルスの周囲は大混乱になっていた。投弾を終えたレドラーは、身軽になった機体で輪陣形から抜け出そうとしていた。ブラキオスもそれは同じだった。主武装である魚雷を撃ち尽くした後は、一目散に逃げるだけだった。
 しかし多くの機体が脱出に成功することなく撃破されていった。投弾してから、引き起こしの遅れたレドラーは海面に衝突し、逆に早すぎる機は無防備に上昇したところを護衛艦のバリゲーターに銃撃された。撃破は免れても、よたよたと頼りなく飛行するレドラーは多かった。
 陣形の外側に向って航行しているブラキオス隊も、生き残っているバリゲーターと激しい砲撃戦を行っていた。特に目標になっている先頭艦の被害は凄まじかった。
 すでにウルトラザウルスに対する攻撃は終了しつつあった。気のせいかもしれないが、輪陣形の外側で行われていた戦闘も終息しつつあるようだった。
 ラミウスは、最後にウルトラザウルスに与えた被害を確認しようとした。意外なことに、あれだけの攻撃を加えられながら、ウルトラザウルスは航行を続けていた。
 ひょっとすると、予想以上にレドラー隊の爆撃は、命中していなかったのかもしれない。だがそれでも近弾となった爆弾は少なくないはずだった。
 見た目以上に少なからぬ損害を与えたのは確かだが、これ以上の追い討ちをかけることは出来なかった。残燃料は心もとなくなっていたし、銃砲弾はそれ以上に消費していた。
 最後に輪陣形から離脱したラミウスは、頼りなく飛びつづける攻撃隊に合流した。共和国航空隊と死闘を繰り広げていた制空任務部隊もすでに合流しつつあった。
 こちらは予想どうりに、かなりの損害をこうむったようだった。明らかに機数が減っていたし、母艦までたどり着けそうに無いほど損傷している機体もあった。
 今度は、送り狼を警戒して攻撃隊の最後につきながら、ラミウスは考えていた。これだけの被害に見合うだけの被害はあったのだろうか。そのことをずっと考え続けていた。


 ウルトラザウルスを護衛する輪陣形から抜け出した頃に、ウルティのブラキオスは致命的な損害を受けていた。輪陣形から抜け出したという安心感が、油断となったのかもしれない。バリゲーターからの攻撃はゾイドコアの中枢に損害を与えるほどだった。
 共和国艦隊から少しでも離れる為に、騙し騙し航行を続けていたが、戦隊についていくのはもう限界だった。このままでは戦隊の足を、引っ張るのは間違いなかった。それどころか本国に帰る前に沈んでしまうだろう。
 だが軍の機材であるブラキオスを、いくら破損しているからといって、ここに放置しておくわけには行かなかった。だからといってこのままの速度で航行していては、いつ共和国軍に攻撃を受けるかわかったものではなかった。
 ウルティだけ戦隊から離れて、母港まで航行することも考えたが、寄せ集めの戦隊から指揮官がいなくなることを考えれば、そんな事ができるはずも無かった。
 結局ウルティは、後ろ髪を引かれる思いだったが、十分に共和国艦隊から離れたところで、ブラキオスを処分することを決めざるを得なかった。
 破損しているとはいえ、中型ゾイドであるブラキオスを確実に処分する為には、炸薬量の大きい魚雷を使用するしかなかった。
 幸いにも、故障して発射されないままだった殿艦の魚雷を修理する事が出来ていた。魚雷を抱えたままでは殿艦だけ遅れることにもなりかねないから、どのみち魚雷は捨てなければならなかった。
 戦隊は、敵艦隊から数十キロ離れたところで停止した。ウルティは愛機を離れると、殿艦のブラキオスに飛び乗った。
 そして、ゆっくりと時間をかけて、殿艦は魚雷の照準をつけていった。ウルティのブラキオスは、操縦者のいないまま漂流を続けていた。殿艦に搭乗したウルティは、自分の手で魚雷の発射スイッチを押した。同時に、勢い良く長魚雷が発射管から飛び出す。
 到達まで十数秒だった。いつのまにか、ウルティの右手が上がっていた。ウルティが、ブラキオスに敬礼すると、それにつられてか、戦隊の全員が敬礼していた。すぐにブラキオスの左舷に巨大な水柱が上がった。
 水柱による飛沫がおさまると、ブラキオスが物言わず波間に沈んでいくところが見えた。ブラキオスは最後に首をのばして水面から顔を出した。それで終わりだった。
 ブラキオスが沈んだ後、海面に浮かぶ僅かな波紋だけが痕跡を残していた。だが、完全に沈んだ後もしばらくは、戦隊の誰もが敬礼をやめる事は無かった。
 ふとウルティは、自分の頬が濡れているのに気が付いた。だが、それが涙なのか、それとも波飛沫なのかはわからなかった。

 母艦のホエールキングに着艦したラミウスは、ふと周囲を見渡した。あの後、教導飛行隊は味方の航空隊を逃がす為に、最後まで戦場に止まっていた。
 結局、ラミウス達が輪陣形の上空から脱出してすぐに、敵艦隊周辺の戦闘は終息していった。どちらの艦隊も、残弾や直衛機の燃料が心もとなくなっていたからだ。共和国軍も、母艦に改造されたウルトラザウルスに残った機体を除けば、ほぼ稼動の全ての機体が帰投したようだった。
 ラミウスは、最後の戦闘でストームソーダー三機を撃墜していた。シューティングスターは、航続距離が長いから最後まで戦う事が出来たのだ。
 だが、それが限界だった。航行速度を落としながらも、まだ帝国本土を目指す共和国艦隊を見下ろしながら、ラミウス達も帰還せざるを得なかった。
 だから、ラミウス達の隊は航空隊の最後尾のはずだった。しかし、格納庫中のレドラーはあまりにも数が少なかった。
 ラミウスが呆然としていると、所在無げにしている整備員と目が合った。整備員は、悲しそうな目でラミウスを見返していた。どうやら背後のシュティングスターをみているようだ。どことなく、恨めしそうにも見える。
 ラミウスは、その目を見るだけで状況がわかっていた。おそらく、その整備員が担当していたレドラーは帰還しなかったのだろう。もう時間を考えれば、これから帰還する可能性は無い。レドラーの搭乗員は戦闘中行方不明となって、レドラーも軍装備禄から抹消されるだろう。
 ラミウスは、大型サーボモーターの稼動音を背後に聞いて振り返った。いま着艦したばかりのホエールキングの前部ハッチが閉じようとしていた。
 どうやら未帰還機の捜索はこれ以上行わないつもりのようだった。ラミウスが知る限り、着水してビーコンを発進している機体は無かったから、未帰還機はほぼ戦死が確定していると考えるべきだった。
 さっきの整備兵は、閉じていくハッチを呆然と見つめていた。そして首を振ると悲しそうに待機所に入っていった。ラミウスは、悲観した様子のその整備兵にかける言葉が思いつかなかった。
 このままホエールキングは本国に帰還するつもりだろう。ラミウスは、今日死んでいった戦友たちのことを考えていた。そして、沈められなかったウルトラザウルスはどうなっているのかを考えていた。
 ラミウスはちょうどその頃、ウルティやラミウス達を囮にしていたシンカーの大部隊が、ウルトラザウルス艦隊を攻撃している事は知らなかった。


 目の前で繰り広げられる状況があまりにも馬鹿馬鹿しくて、ふとベルガー大尉はため息をついていた。隣にいたクリューガー少尉がわざとらしく眉をしかめてベルガー大尉を見てきた。
「お前さんが言いたいことは良くわかるぞ。しかし、それはどうやら言ってはいけないお約束のようだ」
 茶化すようにクリューガー少尉はいうが、その目はまるで笑っていなかった。やはりベルガー大尉と同じようなことを、内心では考えていたようだった。
 ベルガー大尉たちは、メイズマーシ市郊外の陸軍基地訓練場に見学に来ていた。特設実験大隊が間借りしているのと、同じ基地に駐屯している部隊がそこで訓練を行っていた。
 特設部隊に過ぎない実験大隊には原駐地が存在するはずもなく、その場その場で付近の基地を間借りするしかなかった。基地借用の手続き自体はラティエフ少佐のコネがあるからどうにかなっていたが、それでも基地施設の使用を円滑にするためには、間借り先の部隊との密接な打ち合わせは必要不可欠だった。
 いま、ベルガー大尉たちが訓練を見学しているのも部隊との打ち合わせを行っている時に出てきた話だった。
 その部隊は、再編成されたばかりだったから、新兵たちの錬度をあげる為に厳しい訓練が必要不可欠なのだ。一応は訓練校で最低限のことは叩きこまれているはずだったが、部隊指揮官は実戦に準じた状況での新兵の動きを見ておきたいようだった。
 部隊の指揮官は西方大陸戦役を戦い抜いたベテランの士官だったから、それも当然のことだった。
 だが、新兵たちの動きは予想していた以上に悪かった。銃の分解清掃すらおぼつかないものまでいるのだから話にならなかった。
 ベルガー大尉もクリュガー少尉も口に出しては言わないが、暗澹たる気持ちになっていた。こんな状況で戦えるのか怪しいものだった。二人して難しい顔をして新兵たちの動きを見ていると、いきなり背後から声をかけられた。
「随分ひどい様子だね。こんなので戦えるのかい」
 クリューガー少尉が慌てて振りかえると、シルヴィがまるで他人事のような顔をして立っていた。ベルガー大尉は前を向いたままいった。
「いくらなんでもこんな新兵たちばかりではないさ」
 目の前で突撃銃の操作を続ける数人の兵たちを一瞥してから、ベルガー大尉は奥のほうでゾイドを起動させようとしている兵たちを指差した。
「彼らは実戦経験こそないが、ゾイドの操作に関しては問題無いレベルまできている」
「どうかな、彼らはいままでゾイド操作の仕事についていたものを選抜したそうじゃないか、ゾイドの操縦に慣れているのは当然だろう」
 さすがにそこまで言われてはベルガー大尉も首をすくめるしかなかった。この部隊に配属された新兵の大部分が使い物にならないことは明白だった。今までは徴兵の対象にならなかったものを徴兵枠を広げてまで確保したものだから、兵隊の粗製濫造と大して変わらなかった。
「わざわざそんな事を言いに来たのか」
 ようやくシルヴィに向き直るとベルガー大尉はいった。シルヴィは僅かに眉をしかめた。
「いや、隊長のゾイドが整備が終わったみたいだったから伝えに来たんだ」
「整備ってあのジェノザウラーの改造機か?で、どんな感じなんだ」
 脇から興味深そうにクリューガー少尉が乗り出してきた。クリューガー少尉でなくとも、西方大陸戦役で大破したツヴァイの改造案には興味があった。今まではパーツ単位の修理と改造に終始していたのだが、今日になってようやく組みあがったところだった。
「正確にはジェノブレイカーの改造機をベースにしたらしい。機動性を今以上に上げるとか無茶なことを言っていたからなぁ・・・実は俺も詳しい説明はまだ受けていないんだ。ラティエフ少佐ぐらいしか詳細は知らないよ」
 ベルガー大尉がそういうと、ふとシルヴィが手を叩いていった。
「ああ、そうだった。忘れるところだったが、その少佐が来ているよ。ツヴァイの最終点検と何か渡すものがあるとかなんとかで・・・」
 思わずベルガー大尉とクリューガー少尉は顔を見合わせていた。ラティエフ少佐が来たということは、また何か状況が変化したのかもしれない。まるでラティエフ少佐の存在が事件を引き起こすかのようだった。

 ベルガー大尉とシルヴィが格納庫に入ると、昨日まで所狭しと並んでいたツヴァイの外装パーツがきれいに片付いていた。その代わりに、漆黒に塗装されなおしたツヴァイと、ライオン型のゾイドが並んでいた。
 ツヴァイは、今までのジェノブレイカーの装備に加えていくつか奇妙なパーツが付属していた。両脇のシールド基部が丸ごと取りかえられていた。というよりも元々の稼働部とシールドの間に何かの装置が添えつけられているのだ。
 シールド自体にもブースターが増設されている。それに荷電粒子コンバーター脇のスラスターが外側に増設されて二重になっていた。おそらく加速度は今まで以上にあがっているだろう。
 遅れて入ってきたクリューガー少尉は、改装のすんだツヴァイを見て口笛を吹いた。それに気がついて打ち合わせをしていたラティエフ少佐とマイヤー曹長が振り向いた。
「ご苦労、早速ですまんが追加された装備を説明しておく。ツヴァイ本体には手を加えていない、ただし新型のアクチュエーターに交換している部分が多いから反応速度は向上しているはずだ。
 それとウイングスラスターを倍に増設しているから速度もあがっているはずだ。最大の変更点はフリーラウンドシールドを射出式にしていることだ」
 呆気に取られてツヴァイを見ていたベルガー大尉が、怪訝そうな顔をしてラティエフ少佐に向き直った。射出式というのはどう言う意味なのかわからなかった。
「シールド基部のパーツは、シールドを射出するシールドシューターと巻き取る為の超硬ケーブルドラムだ。シューターとシールドに増設されたブースターの力でフリーラウンドシ−ルドを発射する。使用法は大尉に任せる」
 ベルガー大尉は露骨に眉をしかめていた。要するに使用条件もろくに考えずに試作されたパーツということらしかった。この分では、その性能も実際に試すしかなかった。もっともこの装備に慣熟するためにはどのみち訓練をおこなうしかないのだが。
 訓練スケジュールを考えて頭をひねっているベルガー大尉を無視して、興味深そうにツヴァイを見ていたクリューガー少尉が、ライオン型のゾイドを指差してラティエフ少佐に尋ねた。
「それで、その脇の新型機は何なんです。誰が搭乗することになっているのですか」
「これは新型のタイプゼロだ。技術部で開発の進んでいたものだが、量産試作段階に入ったということだから今まで実験機だった二号機を借り受けてきた。実験そのものは三号の一機だけでも間に合う段階に入っていたからな。これにはシルヴィ嬢に乗ってもらうことになる」
 それを聞くと、シルヴィはうれしそうにタイプゼロに走り寄っていった。ベルガー大尉はシルヴィの様子を笑みを浮かべながら見ていたが、マイヤー曹長の声で振りかえった。
「お二方にはすぐにこれに慣熟してもらいます。どうやら戦闘はすぐにでも起こりそうなのですので」
 ベルガー大尉とクリューガー少尉は顔を見合わせた。ラティエフ少佐がマイヤー曹長を引き継いでいった。
「今朝入った情報なのだが、アンダー海で海軍と空軍が叩いた共和国海軍は、シンカー隊の爆撃によってウルトラザウルスが損傷するも航行は可能、それで敵艦隊はこちらに進んできているらしい。おそらく上陸支援の為だろう。だということは上陸船団がその後方にいるということだろうな」
 損害を受けながらも進んでくるということは、つまりは上陸の時間は遅らせられないということなのだろう。上陸船団は艦隊による援護砲撃などで沿岸を制圧しなければ安全に上陸することができないからだ。
 逆を言えば、艦隊からの攻撃さえ防ぐことができれば、上陸を水際で阻止することは可能だった。実際いくつもの師団が沿岸の防衛に借り出されていた。すくなくとも軍団規模の大規模な上陸は防げるはずだ。
 だが、ラティエフ少佐が詳しい説明をしようとしたときに、格納庫にクラウス伍長が駆け込んで来た。司令部から駈けて来たらしく、クラウス伍長は息も絶え絶えな様子だった。それにもかかわらず伍長は格納庫内に響くほどの大声で叫んだ。
「南部防衛司令部より入電、敵艦隊および上陸船団がエントランス湾に出現、共和国軍が上陸しつつあります」
 ベルガー大尉はあわててエントランス湾の地形を思い出していた。だが、その前にマイヤー曹長がつぶやいていた。
「共和国軍はトライアングルダラスを越えてきたというのか・・・」
 何にせよ、訓練期間はそう長くは取れそうも無かった。




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