ZAC2100 レッドラスト砂漠地帯後方戦:前編




 いつものように、ニクシー基地周辺は晴天だった。
 西方大陸の北方地方は赤道近くということもあり、砂漠地帯が大半を占めていたため降雨量は極めて少なかった。ニクシー基地周辺はレッドラスト砂漠地帯からの熱波は、山脈によってさえぎられてはいたが、それでもガイロス帝国のある北方大陸と比べると、気温という点では大きな差があった。
 ベルガー中尉は、その暑さから少しでも逃れようと日陰に逃げ込もうとしている兵士達を見ながら、ラティエフ少佐の部屋へ向かっていた。
 兵士達は、暑さにだらけている様子だったが、中尉が通りかかると、すぐに立ちあがって敬礼した。それに軽く返礼し、歩きながらベルガー中尉は兵士達がだらけていたのは、暑さ以外にも理由があることに否応無しに気が付いていた。
 先の第二次全面会戦の敗北からガイロス帝国軍全体が立ち直ったとは言いがたかった。充足率と言う点では第二次全面会戦以前とはいわないものの、帝国軍はいまだヘリック共和国軍を圧倒するだけの戦力を保持していた。
 だが将兵の士気と言う点では、大きな隔たりがあった。お互いに全力をだした第二次全面会戦に勝利した事で共和国軍は自信をつけ、敗北した事で帝国軍は自信を失った。
 このことは、現在の戦力差以上に、戦局に影響をもたらすであろうことは必至だった。
 だが、その事がわかっていてもベルガー中尉に打つ手は何も無かった。軍中枢部から遠く離れた隊付き将校のベルガー中尉にできる事は無かったし、特設実験大隊自体が動かせる状態ではなかった。一時は旅団級にまで戦力を肥大させた特設実験大隊も、第二次全面会戦が終了した時点で、編入させた戦力を原隊に復帰させた為に、大きく戦力を減少させていた。今、大隊に所属しているのは、原隊が消滅したため特に残置させたものをのぞけば、ベルガー中尉が、会戦以前から直卒している中隊を含めても二個中隊規模でしかなかった。また、大隊は、正規の編成表には存在しない特設部隊であるため補充も遅々として進まなかった。
 そんななか、数日前に、共和国軍はレッドラスト砂漠地帯に大部隊を侵攻させた。これに対して帝国軍は共和国軍迎撃部隊の先遣隊として五個師団を出撃させていたが、特設実験大隊はニクシー基地に残置されていた。

 ベルガー中尉が、ラティエフ少佐の私室に到着すると、ちょうど一人の男が部屋から出てくるところだった。陸軍の将校用軍装をまとった男は、中尉と一瞬目を合わせると無愛想な顔をしたまま、扉を開け放して去っていった。中尉は、男が大尉の階級章を付けている事に気が付いたが、同時になぜかその男がラティエフ少佐と似ているような気がした。将校としての身なりをきちんと整えている男だったが、どこと無く少佐と同じように軍の常識から外れている様な感じがあった。
 首をかしげながらラティエフ少佐の部屋を中尉がのぞき込むと、少佐ともう一人、中年の男が中尉のほうをみていた。
「なにぼさっと立っているんだ。早くそこを閉めろ」
 不機嫌そうな声でラティエフ少佐がいった。あわててベルガー中尉が室内にはいると、少佐はもう一人の男をカミンスキー大尉だといった。
「カミンスキー特務大尉です、よろしく」
「エルンスト・ベルガー中尉であります」
 特務大尉というのだから、下士官から叩き上げた士官なのだろう。ベルガー中尉とそれほど階級に差は無いが、年齢は二十は軽く上回っていそうだった。それゆえか普通の士官のように肩肘ばったところもなく、下級者であるベルガー中尉に対しても腰が低かった。
「カミンスキー大尉には、特設大隊の指揮をとってもらう」
「私は指揮権の無い少佐の代理人ですから、中尉を全面的に信頼して作戦を任せる事にしますよ」
 そう言われても中尉は戸惑うばかりだった。するとラティエフ少佐が、部屋の端末から出力したらしい紙を数枚、中尉にわたした。その紙には、ヘリック共和国内の株式の動きがしるされていた。別の紙には共和国軍のウルトラザウルスなどの性能がしるされている。
「最初にこの紙を見てくれ、共和国における特殊金属の価格帯だ」
「これは…ここだけ急に価格が上昇していますね」
 ベルガー中尉はその金属の名前を見ながら、何かがひっかかるのを感じた。疑問をいだいたまま次の紙に目を通して気がついた。何のことはない、この金属は火薬式の砲に主に使われるものだった。ビーム兵器が主体である帝國軍には、なじみのうすいものだったが。
「ゴジュラス用の重砲でも生産したのでしょうか」
 事情がまだ飲みこめてはいない中尉が言って顔を上げると、少佐がにらみ付けているのを見た。
「ロングレンジバスターキャノンか。補充用の分は通常の予算に組み込まれているはずだ。それに共和国軍のゴジュラスの配備数は、3桁にとどくか届かないかというところらしい。むしろあの砲の配備先は重砲隊がメインなのではないのか。ただし、現在の局面で共和国軍が重砲隊を大量に補充する必要性はないだろう。重砲隊だけ増やしてもナンセンスだからだ。他の物資の価格は正常なのだから師団単位の新規編成も考えづらい」
 少佐はそういってベルガー中尉を見つめた。中尉は、あわてて価格上昇の理由を考えようとした。そこで中尉は士官学校時代に学習した兵器を思い出した。
「そういえば昔の地球には列車砲という巨砲が存在したらしいですね」
 思い付きを口にしただけだったが、ラティエフ少佐は一瞬目を見開いて驚いた表情を見せた。
「君もそう思うか。価格上層幅から合金の重量を推測し、これがすべてを単一の大型砲に用いたとする、次に肉厚や口径長をロングレンジバスターキャノンと同等とすると・・・このくらいの砲になるな」
 少佐は中尉に別の紙を渡した。そこには内径二百センチを超える巨砲の簡単なスケッチがあった。それを見た中尉は首を傾げざるをえなかった。どう考えてもこれだけの巨砲を運搬出来るとは思えない。
「言いたいことはわかっている。確かにその砲はナンセンスだ。かつての地球で、列車砲という巨砲が陸上で運用できたのは、この星には無い、鉄道という輸送機関の軌条が張り巡らされていたからであり、それでも運用は困難だった。
だがここにはゾイドが存在する」
「ですが共和国軍のキングゴジュラスでもなければこれだけの重量と反動は支えきれないのではないですか。現有するゾイドでは両軍あわせてもこれだけの砲を運用できるゾイドは無いと思います。機動運用できなければこれだけの巨砲でも宝の持ち腐れなのでは」
 そう言いながらも、中尉はもし共和国軍が本当にこれだけの巨砲を建造したのならば、言い換えれば運搬手段を確保しているということだと考えていた。それだけの準備もなしに建造するはずも無い。中尉はその方法を必死で考えていた。だが少佐はあっけなく解決法を持ち出した。
「二分割すればいい。その前にこれは単一の砲を建造した場合だ。現実的に考えて、複数の砲を建造しただろうな。それに現在でも共和国軍は、ウルトラザウルスを保有しているらしい。ウルトラザウルスなら、両舷にそれぞれ砲を懸架することが可能だと思う。発砲時には地面に何らかの形で砲を固定するように設計しておけば、ウルトラザウルスは単に砲のキャリアでありすればいいわけだから、設計開発は容易なのではないかな」
 その時、短いノックの後、扉が勢いよく開かれ、慌てている表情の当番兵が入ってきた。
「派遣軍司令部より連絡、共和国軍を迎撃に向かった部隊が全滅。敵は大型砲をウルトラザウルスでもって運用している模様、以上」
 部屋の中にいた三人は顔を見合わせて、誰からとも無く無力感からため息をついた。



 ラティエフ少佐は司令部から続報を待ったが、追加の情報はなかなか送られてこなかった。だが時間が経つうちに、少しずつ情報が流入してきた。どうやら司令部が情報制限などを特に設けたわけではなく、どの部隊も正確な情報を入手していなかったのが理由であるようだった。言い換えればそれだけ各部隊が混乱していたのだ。
 共和国軍の迎撃に向かっていた五個師団はどれも壊滅的な損害を受けていた。ゾイドや兵員の被害は相当出ているようだった。だから残存する兵力からの連絡よりも、上空を警戒していた空軍の偵察隊のほうがより正確な情報を入手していた。
 空軍の偵察機仕様レドラーが、共和国軍大部隊の中心に、ウルトラザウルスの存在を確認していた。またウルトラザウルスの両側に、大型砲を搭載しているのも同時に確認された。その砲はかなりの長砲身であり、状況から考えて百キロほどの射程を持っていることが確認された。
 これは光学兵器を主力としている帝國軍に不利な状況といえた。光学兵器は、威力はあるがその性質上、間接照準が不可能である。共和国軍は、力押しとも言える方法で、長射程を実現していた。帝國軍には、これに対抗できる射程距離の兵器が無かった。
 ただこの射程だけであれば届く兵器もあるが、ウルトラザウルスに致命的な損害を与えうるものは無かった。
 帝國軍は、ウルトラザウルスを正面から撃破することを早々にあきらめ、少数の高速部隊でもって隠密にウルトラザウルスに接近し、これを撃破する戦術を選択した。命令を受けた高速部隊は、小隊から中隊単位で必死の覚悟を胸に出撃していった。
 だが少佐にはとてもその作戦が成功するとは思えなかった。高速部隊の技能はこの場合問題とはならなかった。帝國軍の将兵はみなかなりの技量を誇っていたし、高速部隊に所属するゾイドの性能も、決して共和国軍のそれに見劣りするものではなかった。
 特に最新鋭のライトニングサイクスは、制式採用からわずか二ヶ月でかなりの数が生産されていた。搭乗員の技量も、集中した戦技訓練で見違えるほど上達していた。高速部隊の主力をなすべきヘルキャットの性能が同クラスのコマンドウルフと比べて大幅に下回っていたから、代替機のライトニングサイクスに期待がかかったともいえる。
 同じように、限定されたオーガノイドシステムを搭載したジェノザウラーの量産型も、生産ラインにのっていた。
 だが少佐にはこれらのゾイドだけでは、ウルトラザウルスを守備している共和国軍戦線の突破は困難だと思われた。それにジェノザウラーの荷電粒子砲を除けば、出撃した高速部隊にはウルトラザウルスに致命的な損害を与えうる火器は装備されていなかった。つまりはこれらのゾイド部隊には、時間稼ぎをすることしか出来なかったのだ。
 もっとも司令部にそれ以外の作戦を選択する余地は無かった。正面からの大部隊での接近は、ウルトラザウルスに搭載された巨砲による攻撃をまねくだろう。そしてあの巨砲の攻撃に耐えられるゾイドは帝國軍には存在しなかったのだ。

 この局面のなかで、特設実験大隊は共和国軍後方部隊の襲撃を企画していた。ラティエフ少佐やベルガー中尉は、特設実験大隊が選択可能であるいくつもの作戦プランを練り上げたが、実質的に遂行可能な作戦はそれだけだった。
 少佐は、後方に存在するであろう補給部隊をたたくことで共和国軍の継戦能力を奪おうとしていた。補給物資を砂漠の中で失えば、共和国軍は大部隊ゆえに行動不能に陥るはずだった。
 現在の特設実験大隊が取りうる作戦はこれしかなかった。しかし大隊の戦力不足は否めなかった。ゾイド一個中隊に歩兵一個中隊というのは決して多い兵力ではない。唯一のなぐさめは、高度に機械化されているということだけだった。
 だが、兵力が少ないことで少数精鋭部隊による奇襲効果は望めるはずだった。下士官兵の訓練は行き届いているし、士官達もお互いの気心は知れていた。
 作戦は、ホエールカイザーを使用した降下作戦とすることが決定された。ただ、司令部は大隊を輸送するに足りる数のホエールカイザーは貸し出さなかった。
 おそらく新型のホエールキングの配備が進んでいなければ、ホエールカイザーを貸し出すことも無かっただろう。足りない分の輸送力は、ホエールカイザーにグライダーを曳航させることでおぎなうしかなかった。
 また護衛機は、大隊に所属するほんの数機の改装型レドラーが行うしかなかった。そのレドラーは、地上攻撃用の実験機であり、円環式の粒子加速器を翼上に装備したタイプで、荷電粒子爆撃型と呼称されていた。
 荷電粒子爆撃型のレドラーは、粒子加速器によって大幅に重量が増加し、また空力抵抗も大幅に増大しているため、空中での機動性と最高速度が著しく低下していた。搭載された荷電粒子砲も、威力はジェノザウラー搭載型と同じ程度あるのだが、必要な速度まで荷電粒子が加速されるまでのいわゆるチャージング時間はゾイドコアの出力が低い為ジェノザウラーよりも時間がかかったし、発射可能回数も大幅に制限されていた。
 むしろ、レドラーがジェノザウラーよりもコアの出力が低いために、長時間の加速が可能な円環式粒子加速器が搭載されたのだ。その射界も、旋回しながらの地上攻撃を主眼として開発されていたから、飛行目標への射撃は困難なほど射撃可能域は狭かった。
 こうした問題は多かったがラティエフ少佐は、大隊の投入位置とタイミングさえ間違わなければ相当な打撃を共和国軍に与えることが可能だと考えていた。
 共和国軍は、大軍であるがゆえに、補給部隊にかかる負担は相当なものであるはずだった。第二次全面会戦直前に派遣された増援部隊も、十分な数の補給部隊を輸送できたとは思えなかった。それから補充されたとしても、補給の割り当てに余裕は無いはずだった。
 補給ルートもややこしいものではなく、最適なルートを選択するだろうし大規模な補給部隊を一気に動かすはずだった。それならば集中した補給部隊を叩くことによって、小規模な戦力しか保有しない特設実験大隊でも大きな戦果をあげることが可能だった。
 ただ、時間はそれほど残されてはいなかった。ウルトラザウルスがニクシー基地を射程におさめる前に補給路をたたかなければ意味が無かった。
 特設実験大隊は、四機のホエールカイザーに分乗し、大きく戦線を迂回して共和国軍の後方へと向かった。



 外壁をたたく気流の音が変化しつつあることで、ベルガー中尉はホエールカイザーが降下しつつあることを知った。すでにレッドラスト砂漠地帯とミューズ森林地帯の境目の辺りまで来ていた。
 ニクシー基地から出撃した彼らは、一度西方大陸の北部と西部の境目であるヒラリー湾方面に向かった後、オリンポス山のあるメリクリウス湖周辺で高度を落としてレッドラスト砂漠地帯を飛行してきた。
 そのような複雑な航路をとったのは、共和国軍に察知されない様にするためだった。ホエールカイザーには、最低限の自衛戦闘を可能とする程度の武装しか搭載されていなかったから、最新鋭のストームソーダーに見つかったときはなすすべも無く撃破されるだろう。
 プテラスに見つかっても同じことだった。短時間に敵を押さえ込むことはできても、敵に察知された時点で、奇襲攻撃は成り立たなくなるのだから作戦は失敗する。
 ホエールカイザーには、上部には砂漠地帯用の迷彩が念入りに塗装され、下部には低空飛行用の精密高度探査用のレーザセンサが取り付けられていた。高度百数十メートルという低空をホエールカイザーは飛行していた。操縦員の疲労はかなりのものになるが、うかつに高度を上げればたちまち共和国軍のレーダに察知されることは彼らも知っているから文句は言わなかった。

 ラティエフ少佐からの通信が入ったのは、ベルガー中尉が降下直前の機体の点検を終了させた直後だった。
 愛機であるダークホーンには、通常装備のビームガトリング砲の他に、強行型レッドホーンの頭部に搭載されていたストレートクラッシャーホーンが搭載されていた。
 これは、大破した強化型レッドホーンの残骸から回収されたものだった。中尉のゾイド以外にもゾイド中隊のゾイドには純正の機体は少なかった。速度の遅い補給部隊を攻撃するのだから機動性が低下しても攻撃力を重視したためだった。
「中尉、聞こえるか」
 無線傍受を恐れて無線封止中であるため、比較的傍受の困難なレーザ通信で行われている通信は、少佐の乗っている長機と、中尉の乗っている列機との空間上の関係が絶えず微小に変化を続けているから、レーザビームが安定せずにざらついた画像をモニターに映し出していた。
「こちらベルガー、通信良好」
「よし、降下時間まであと数分だ、手順を確認する。確認された補給基地と、予想される補給ルートを探察、発見しだい補給部隊に攻撃を集中、護衛部隊との交戦は極力回避。いいな」
「了解」
 簡単極まりない確認だったが、何度も作戦を確認してきた中尉にはそれで事足りるものだった。

 次に、少佐が士官全員との回線を開こうとしていたときに、長機のホエールカイザーが攻撃された。高出力のビーム砲らしき光源を確認した中尉は、あわててサブモニターを自機のホエールカイザーの外部カメラからの映像に切り替えた。
 その時にはもう通信は切れており、モニターには回線閉鎖を示す表示が出ているだけだった。
 長機のホエールカイザーがビーム砲の直撃を受けたのは明白だった。だが、攻撃してきた敵機の存在は見当たらなかった。
 攻撃を受けると同時にホエールカイザーは全レーダを作動させていた。すでに無線封止の意味はなくなっていた。
 そのデータは中尉のダークホーンにも送られていたが、敵機を示す兆候は無かった。だとすれば敵は地上に存在するのだろう。

 すでに長機は地表上に落着していた。長機が牽引していたグライダーは、危なっかしく牽引索を解除して、自力で飛行していた。長機の状態は不明だが、この低空からの落着ならば搭乗員が全滅するという極端な事態は無いはずだ。
 ベルガー中尉はそう確信すると、連絡が回復するまで大隊の指揮をとることを決意した。

 大隊の士官のうち、ラティエフ少佐は長機に搭乗していたから、しばらくは指揮がとれないだろう。カミンスキー特務大尉は最初から留守番部隊の指揮をとっていたから攻撃隊には参加していない。
 他の士官は、クリューガー少尉が同行していたが、クリューガー少尉は長機のグライダーに乗り込んでいたから合流までにはかなり時間がかかるかもしれない。

 高度の調整がうまくいかないのか、ふらついている長機のグライダーを見て、ベルガー中尉はこの地点で降下する事を決定した。長機を攻撃した後、共和国軍の攻撃がやんでいるのが不安だったが、共和国軍はビーム砲の運用ノウハウが少ないから、放熱器などがうまく働いていないのかもしれない。そう考えると中尉は部隊に命令を下した。
「少佐が合流するまでベルガー中尉が指揮をとる。全機降下、一号グライダーは乗員も退避、一号グライダーは放棄する。」
 その命令が下った直後、ホエールカイザー全機の前部ハッチが開き、そこからゾイド中隊のゾイドと、歩兵が乗ったサイカーチ、ウォンバムが降下した。サイカーチには左右に生身の歩兵が掴まっており、ウォンバムにはアーマードスーツを着た歩兵が翼下に吊るされていた。同時に物資の入ったコンテナも少数が降下した。
 降下した部隊は、すぐに小隊単位で集合し、本部管理隊を中心とした円陣をつくった。だが、本部管理隊はすべて長機に搭乗していたから、ベルガー中尉は自分の中隊から数機を引き抜くと、一時的に本部管理隊の位置についた。
 降下地点がやや離れたクリューガー少尉の歩兵小隊が到着したころ、一号グライダーがガトリングガンらしき短い銃声の後に爆発した。彼らも降下が遅ければ同じ運命をたどったはずだ。すでに部隊を降下させたホエールカイザーは低空飛行のまま敵が存在するであろう方向から回避する軌道をとっていた。

 だから、迷走しているグライダーが撃墜させられたのは予想した事だったが、突然長機が落着した方向から爆発音がしたのは予想外だった。てっきり長機は、機関部が破壊されて落着しただけだと思っていたが、どうやら爆発物に引火したようだった。これまでの短時間で乗員が爆発の影響圏から退避できたとは思えなかった。
 乗員の生存は絶望的だった。ちょうど、悪いことに上空に爆音が鳴り響いた。中尉は茫然としたまま、上空からの偵察が困難な森林地帯への大隊の移動を指示した。


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