ZAC2100 ミューズ森林地帯遅滞戦:終編




 気が付くとホエールキングが目的地に到着したらしく、周囲の兵達が下船を始めていた。ベルガー中尉は、その騒音と中尉の名を呼ぶ声で目覚めた。
 どうやらコクピットに座ったまま眠りこけてしまった様だ。通信モニターには、ラティエフ少佐が映っていた。モニターの表示によると、艦内の有線ネットワークを使用してダークホーンに通信をいれたようだった。
 ベルガー中尉は寝ているのがわかったのかと思い赤面した。そんな中尉の表情の変化に、気が付いているのかいないのかラティエフ少佐は言った。
「中尉、艦橋まで来てくれないか。今後の行動を説明したい」
 中尉は、それに了解と伝えると近くにいた整備兵にダークホーンをまかせてホエールキングの艦橋に向かった。

 ベルガー中尉が艦橋についたときには、すでに特設実験大隊の主要なメンバーが集まっていた。といってもラティエフ少佐とマイヤー曹長を除けば、この第二次全面会戦中に臨時編入されたもの達ばかりだった。
 他に特徴をあげるとすれば、大隊編成をとるにしては異様に士官の数が少ない事があった。
 ―よくこれだけの人員で戦えたものだ…
 中尉は、まるで他人事であるかのように感心した。だが、見まわしてみると全員が暗い表情を浮かべているのに気が付いた。どうやら中尉が、ダークホーンのコクピットで寝ている間にラティエフ少佐の言う行動説明がある程度進んだようだった。
 だがそれがわかっても、全員が暗い表情を浮かべる理由は思い浮かばなかった。たしかに第二次全面会戦はガイロス帝國軍の敗北に終ったが、特設実験大隊に限れば大戦果を上げていた。直接撃破した敵機の数はそれほど大した事ではないが、数個師団もの戦力を足止めした事は評価に値する事だった。
 怪訝な表情を浮かべていたベルガー中尉に、ラティエフ少佐がいつもの様に淡々と今までの経緯を説明した。
「現在、我が帝國軍と共和国軍は、なしくずし的な休戦状態におちいっている」
 ラティエフ少佐は、手元のデータパッドを見ながら艦橋に設置されている大型モニターに西方大陸全域の地図をだした。
「全面会戦に参加し他部隊のうち、中央ルートから撤退した部隊は、我々の援護のもと戦闘地域からの離脱に成功し現在はレッドラスト砂漠地帯で補給と再編成に取りかかっている。
 南方ルートで脱出した部隊は、武器開発局の開発したジェノザウラーの格闘戦型と、第29独立駆逐戦隊の援護によって戦闘地域を離脱、同じくレッドラストで再編成中。
 問題は北方ルートだ…」
 ラティエフ少佐は、そこで迷っているかのうような口調になった。全員が、少佐らしからぬ口調に異変を感じていた。
「北方ルートには、レッドラスト砂漠で試験中だった教導師団の実験隊が、足止めに投入された」
「その実験隊は何を研究していたんです」
 ベルガー中尉がラティエフ少佐に聞いた。
「ジェノザウラーの改造型が中核になったらしい。それに次期高速ゾイド部隊主力機も含まれていた様だ。全機がオーガノイドシステムを実装したタイプだ」
「それだけですか」
 マイヤー曹長の冷やかな声に全員がぞっとした。ラティエフ少佐は苦笑するとマイヤー曹長に向き直った。
「今から説明するところだ。この実験隊には大陸南部の遺跡で発見されたオーガノイド技術から復元された実験機が含まれていたらしい。デススティンガーと言うそのゾイドが戦闘中に暴走し、帝國、共和国お構い無しに破壊していったらしい。これも武器開発局が開発したものらしいな」
今度はクリューガー少尉がラティエフ少佐に質問した。
「その武器開発局ってのは何ですか。技術部にそんな名前の機関は無かった様な気がしますが」
「去年に新設された部局だ。性格には技術部隷下の第二研究所を発展させたものと考えるのが正しい。人員や施設は第二研究所のものを受け継いでいる。技術部長の指揮下にあるとされるがPK師団との結び付きが強いとも言えるな…実際、局長のシュナイダー中将はプロイツェン摂政と懇意だというし…」
「確か、去年デスザウラーの復元に成功しかけたのも武器開発局なんですよ。ジェノザウラーもオーガノイドシステムの搭載が決定した頃から武器開発局に扱いが移ってるんです。いってみればオーガノイドシステムに関する技術を独占してるんですよ」
 説明の途中で止まったラティエフ少佐をついでマイヤー曹長が説明した。
「何にせよオーガノイドシステムは危険な物という事でしょうか」
 それまで黙って聞いていたクラウス伍長が呟いた。
「共和国軍はどうなっているのです。彼らもオーガノイドシステムの危険性に気が付いたのでは」
「そうだな、そうかもしれない。南方ルートの共和国軍はヘスペデリス湖周辺の橋と渡河用資材を破壊したからしばらくは攻撃してくる可能性は薄い。中央ルートも砂漠地帯で進撃を停止している。私には両軍ともに、しばらくはデススティンガーに振り回される様な気がするな…」
 ラティエフ少佐は天井を見上げながら言った。

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