M6重戦車




M6重戦車


M6A1重戦車



M6A2重戦車


M6A2重戦車(改修型)


<要目>
重量58トン(M6A2は60トン)、全長 8.5m、エンジン出力 825hp、乗員5名、装甲厚102ミリ(最大)、武装50口径76.2ミリ砲M7、53.5口径37ミリ砲M6(M6)、 50口径90ミリ砲M3(M6A1)、56口径105ミリ砲(M6A2)、12.7ミリ機関銃×2、7.62ミリ機関銃×2 、最高速度35km/h

 ソ連軍経由で大祖国戦争にドイツ軍が投入した重戦車群や、ソ連軍のスターリン重戦車などの情報に接した米陸軍は同種重戦車の開発計画を要望したのだが、新規開発の予算は大恐慌の影響による不況から議会によって認められなかった。当時の米国の政治情勢から重戦車が必要となる戦場は想定しづらく、予算規模の抑えられる軽戦車部隊の充実を議会は推奨していた。
 また特殊な重機械である重戦車を開発しうるのは軍工廠のみであり、生産数も限られるであろう状況から公共投資としての価値も低いとみなされていた。
 やむを得ず、米陸軍は既存のM6重戦車の改良という名目で予算計画を通していた。1940年代初頭の比較的早い時期に高初速の高射砲弾道級3インチ砲を全周旋回可能な砲塔に収めたM6重戦車は画期的な性能といえるものだったが、大戦中盤以降は中戦車においても3インチ級砲の搭載が珍しくなくなっており、性能の陳腐化は明らかだった。
 M6重戦車の砲塔には主砲の3インチ砲と同軸で37ミリ対戦車砲が装備されていた。これは低い主砲の発射速度を補うと共に榴弾などを用いて対人戦闘を行うことも考慮したものだったが、欧州戦線の戦訓から実用性は低いのではないかとも考えられるようになっていた。
 だが、この37ミリ砲を撤去すれば砲塔内のスペースに余裕ができるのも確かであり、M6重戦車は現状のままでも大威力主砲への換装は容易ではないかとう希望もあったのである。

 M6重戦車の改良型として開発されたM6A1に搭載された主砲は90ミリ砲だった。これは本土防空用に暫定的に生産されていたM1高射砲を原型として、狭い砲塔内に収めるために強力な駐退復座機を備えたものだった。予算不足から砲塔形状は概ねM6重戦車原型から変更されておらず、外観上は防盾をすげ替えたものと言ってよかった。
 しかし、砲塔容積は37ミリ砲の撤去で余裕があったものの全長が抑えられていたことから、駐退距離を抑えても操砲作業は困難だった。やはり予算不足によって弾薬が高射砲と完全互換性を維持していた結果、高射砲用の大容量、長寸法の薬莢を狭い砲塔内で取り扱わなければならなかったためである。
 M6A1最大の利点は、既存車両からの改造が可能な点にあった。議会が認めた予算がそれしかなったという点も無視できないが、車内の弾薬箱などを除けば、防盾の換装だけでA1仕様に換装出来たのだ。元々M6重戦車の生産数が少ない事もあって、定期整備の機会を利用して全車の改修計画が行われたほどだった。

 だが、M6A1の改修作業途上においてソ連軍からもたらされたスターリン重戦車の改良型の情報が状況を一変させた。大戦終盤に投入されたIS-2やIS-3はM6A1と同様に狭い砲塔内の操砲作業が困難となるほどの砲を搭載していたものの、その主砲は90ミリ高射砲とは格段に差がある122ミリカノン砲だったからだ。
 これに衝撃を受けた米陸軍は再び新型重戦車の開発計画を提案していたものの、やはり国際情勢から新型重戦車開発に必要な莫大な予算を考慮した議会は陸軍案を却下し、M6重戦車のさらなる改良を指示していた。

 M6A2重戦車となった改修型は、生産ラインは流用しつつも本来は新規生産による全面改修モデルとなる予定だった。その試作車両の前面装甲はスターリン重戦車を参考にしたと思われる傾斜装甲を採用しており、装甲は増厚されていた。
 重量増大の為に足回りの新規設計も考慮されていたのだが、予算不足と開発期間短縮からM3中戦車の全面改修モデルで試作されていた水平バネ式サスペンションをバネ径を拡張した上で採用していた。なおエンジンは既存のものを流用せざるを得なかったため、不整地での最高速度は低下していたと言われている。
 砲塔は新規に開発されていた長砲身105ミリ砲を収める為に大型化されており、十分な操砲スペースを確保していた。ただし、砲塔旋回装置が従来のままであるため、装甲も強化されて重量化していた砲塔の旋回速度は低く抑えられていた。
 このM6A2重戦車は速度面以外では概ね陸軍内部を満足させていたものの、議会はなおも米軍にこの様な60トンを越える重戦車が必要なのかを疑問視しており、試作車両そのままの量産を行う予算が許可されなかった。
 結局、太平洋戦争勃発までの間に生産されていたM6A2重戦車は極少数であり、大半はM6A1仕様に未改修だったM6原型車から砲塔をすげ替えただけのM6A2仕様と言うべきものでしかなかった。


 


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