特1号型輸送艦




特1号型輸送艦


特1号型輸送艦(ダビット増設時)


<要目>
基準排水量 3,200t   全長 120m  ディーゼル 出力 12,600馬力(二軸)
最大速度 16.5ノット  乗員 120名(揚陸部隊最大約560名)

兵装
連装40口径12.7サンチ高角砲 2基
三連装25ミリ機銃 12基
大発動艇 2隻(特別装備時8隻)

 日本海軍は戦時標準規格船を原型とする二等輸送艦(101号型)を建造した。これは原理的には陸軍と共同開発の大発動艇と同じく、上陸する海岸に乗り上げて乗船した部隊を迅速に揚陸させるビーチング方式であった。
 二等輸送艦は戦車一個小隊四両と歩兵部隊一個小隊程度の諸兵科一個中隊単位を揚陸させることが出来た。
 しかし第二次欧州大戦において国際連盟諸国は緒戦において欧州大陸に策源地となる同盟国領土を喪失しており、来るべき大陸反攻作戦では大規模な兵力を短時間の内に迅速に上陸させて橋頭堡を確保する必要があった。
 そこで二等輸送艦の拡大型ともいえる特1号型輸送艦が建造された。この特1号型輸送艦は技術的には戦時標準規格船三型を原型としつつ二等輸送艦と同じく艦底構造の強化やバラストタンクの増設、観音扉方式の船首扉などを設けたものだったが、現設計であるばら積み貨物船とビーチング方式輸送艦では構造の相違点が多く改設計作業における設計工数は多かった。

 特1号型輸送艦は強化された艦底部の上に重車両甲板を設けており、中戦車で1個中隊程度の重量級車両を搭載することが出来た。この重車両はそのまま船首扉から揚陸、収容を行うが、重車両甲板には更に上甲板と連結する傾斜路が設けており上甲板にも車両を搭載することが可能だった。
 ただし、艦体強度から上甲板に戦車等の重車両を搭載することは不可能であり、自動貨車や装甲兵車等の軽車両搭載用となっていた。上甲板には軽車両の他に物資等の搭載に使用されることもあり、装甲兵車クラスを釣り上げられる重デリックが艦橋直前に配置されていた。
 後に上甲板は広大な面積から回転翼機の発着艦にも使用されており、多用途に使用されることが多かった。
 また艦首楼、艦橋周囲には対空戦闘を前提とした対空火器を搭載されていたが、建造時期によってその搭載位置や数量には変更が多かったようである。

 車両甲板の左右はバラストタンクや兵員の居住区とされているが、特号輸送艦に限らずビーチング方式の輸送艦は揚陸部隊の兵員を載せたまま長時間の航行を行うことを前提としていないため、居住区は簡易的なもので最大で一昼夜程度の宿泊用の設備しかなかった。
 また特1号型輸送艦は乗艦させた兵員の揚陸や、雑務用に艦橋左右舷に大発を計2隻搭載していたが、上甲板には8隻程度までダビットを増設することが出来た。
 短距離の場合は、上甲板に簡易な落下防止措置等を増設して揚陸兵員を載せたまま航行する事もあったようであり、シチリア島上陸作戦等で実際に戦車部隊に加えてダビットを増設して大発で多数の兵員を揚陸させていた。
 ビーチング方式の揚陸艦は、最大積載重量のままでは喫水が深くなりすぎるためにビーチング揚陸する際には積載重量に制限があった。逆を言えば母艦である輸送艦がビーチングするまでに大発や揚陸部隊を発進させれば、ビーチング揚陸時の最大重量を超えた部隊を輸送することも可能であった。

 特1号型輸送艦は手頃な艦体寸法もあって汎用性から揚陸ではなく他の用途に転用されることも多く、外国に売却された中には長く使用されたものも多かった。




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