ワスプ級空母





<要目>
基準排水量 14,700t   全長 226.1m  全幅 33.2m  蒸気タービン 出力 75,000馬力(二軸)
最大速力 29.5ノット  乗員 1950名

兵装
連装38口径12.7cm両用砲 3基
単装20mm機銃 14基

搭載機 固定翼機50機

同型艦 準同型艦エセックス


 軍縮条約下の1930年代なかば、ヨークタウン級空母の就役によって米海軍は近代航空戦力を洋上で展開する能力を得た。高速の巡洋艦艦隊に随伴可能なヨークタウン級は、それまでのコロラド級やレンジャー級で得た教訓を元に設計された米空母の集大成であった。
 そして、米海軍航空関係者は、半ば実験艦として航空母艦に改装され、旧式化していたCV-1ラングレーを水上機母艦として再改装し、軍縮条約の制限下でそのかわりに小型空母一隻を就役させることを計画していた。
 だが、この小型空母案は設計案こそ承認されたものの、詳細設計の段階で足踏みを余儀なくされた。この時期米海軍の設計力は、大半が軍縮条約破棄を見越して新造戦艦につぎ込まれており、建造に関わる予算も戦艦を重視して空母部隊には目が行かなかったためだった。
 また、1930年代の米海軍は予算不足に喘いでおり、そのリソースを主力部隊である戦艦に集中する必要があった。公共投資として大軍拡が始まる1940年代初頭までの米海軍建造計画はつつましいとさえ言えた。
 これらの理由のため、実際にワスプと命名された小型空母の起工は43年まで延期されることとなった。
 その間に、軍縮条約の破棄によってヨークタウン級は2,3番艦が追加建造されたが、小型空母案は検討段階でストップしたままだった。

 本来ヨークタウン級をタイプシップとして、これを小型化した艦となるはずであったワスプは、その間にかなりの設計変更が図られることとなった。
 これらの設計変更要求は航空部隊からではなく、主に砲術科から出されたものだった。また、タイプシップもヨークタウン級を原型としながらも、かなりの部分をアーカム級航空巡洋艦にとられている。
 ワスプにおいて最も顕著な特徴は主飛行甲板前半部の一段下部に設けられた下部飛行甲板にある。この二段部分と装備されたカタパルトも砲術家達が求めたものだった。彼らはワスプをヨークタウン級のような正規空母ではなく、戦艦部隊を補佐する直衛空母とすることで、海軍航空関係者に予算を認めたのである。

 元々、米海軍における空母の運用は40年代に達しても旧態依然としており、主力艦である戦艦による砲撃を支援する観測機の援護と敵観測機の迎撃が未だ主任務であると考えられていた。しかし、第二次欧洲大戦において日本海軍が航空母艦を集中運用し始めると航空母艦の攻撃力が無視出来ないものであることが判明し始めた。日本海軍遣欧艦隊の空母部隊は、その打撃力で欧州での陸戦を優位に展開させることに成功した。
 もしも洋上でこの打撃力が発揮された場合、防空能力を極限まで高めた主力戦艦が撃沈されることは無いにしても、ある程度の損害を被る可能性は高いと考えられた。
 しかし、これに対して空母部隊を防空任務にあてるという構想は、肝心の海軍航空関係者からの反対で頓挫することとなった。当時の海軍航空の中心人物であったハルゼー中将は、宿敵である日本海軍に習って高速のヨークタウン級などの主力空母を一括して運用する構想をもっており、日本海軍の新造空母に対抗して建造されつつあった新型空母もこの航空部隊に編入させるつもりであった。

 だが、リー中将やパイ中将などの砲術家達は、日本海軍が戦艦部隊である第一艦隊隷下に二隻の中型空母を配属していることに注目し、同様に自軍戦艦部隊に随伴する防空艦としての空母を求めた。そのため、彼らは空母関係者に対して新型空母建造予算承認に対する支援と引き換えに防空用軽空母の建造を認めさせた。
 この防空軽空母計画に、頓挫していた軍縮条約枠内での空母建造計画が合流して実際に建造されたのがワスプ級空母である。
 本来は軍縮条約に縛られずに建造することが可能であるはずだったが、就役までの期間を短縮するためにラングレー代艦として計画されていた設計図とアーカム級航空巡洋艦の設計を大部分流用したために基準排水量約一万五千トンという中途半端な大きさの空母として出来上がってしまった。

 ワスプは前述の通り基本的にはヨークタウン級の小型版として建造されたが、防空空母として設計変更が試みられた際に追加されたカタパルトデッキによって異形とも言える姿で現れた。その外形は一見かつてのコロラド級改装空母を思い起こさせる二段空母となっている。
 しかし、コロラド級航空母艦の就役後の運用実績などを考慮して、最上部の飛行甲板はほぼ船首と同レベルまで延長されており、外見はともかく、運用上はむしろヨークタウン級空母に、コロラド級同様の発進専用のカタパルトデッキを新たに設けたというのに近い。
 このカタパルトデッキは、ヨークタウン級では横方向に設けられていた格納庫内カタパルトの延長線として設けられたものだった。
 ヨークタウン級ではこの格納庫内カタパルトは使用実績は低かった。わざわざカタパルトを使用しなければならないほど大型大重量の機体がその時点で存在していなかった事と、機体にかかる負担を考慮してのことである。実際、日本海軍においてもカタパルトは飛行甲板の短い海防空母などの使用率は高かったが、正規空母では40年代後半になるまでほとんど使用されていない。
 しかしワスプ級は防空空母として敵機発見後に可能な限り短時間で大量の迎撃機を発進させることが求められていた。その為に、第二の飛行甲板としてカタパルト甲板が用意されたのである。
 カタパルト甲板は、ヨークタウン級ではウインドラスやムアリングウィンチを設けている格納庫前側の錨甲板スペースを拡大してカタパルトレールを設置している。カタパルト甲板と飛行甲板との間隔は非常に狭く、カタパルトから射出される機体は、カタパルトのシャトルに固定されることで天井との接触を避けるようになっているが、それでも飛行甲板前縁との接触事故が公試中に発生したためカタパルトレールの延長を行う改正工事が実施されている。

 米海軍は議会などにカタパルト甲板の設置により、ヨークタウン級に対して二倍の速度で迎撃機を発進させることが出来ると説明したが、さすがにこれは誇張だった。実際には上部飛行甲板から二機が離艦する合間にカタパルト甲板から一機が射出されるというのがおおよその運用スタイルだったようである。
 これはカタパルトの容量などのほか、カタパルト甲板が格納庫よりも高い位置にあったため、格納庫内の機体を射出する際は格納庫最前部の専用エレベータで持ち上げる必要などがあったためである。
 それでも大型のヨークタウン級空母と比べても発進速度は大きく、実際に敵航空部隊の襲来にあう戦艦部隊将兵からの評価は高かった。

 しかし戦艦部隊からの評価に相反して、乗員や航空関係者のワスプ級への評価は極めて低かった。
 航空主兵論者からすれば、ワスプ級はコロラド級同様にその排水量の割に搭載機の少ない軽空母でしかなかった。また、ワスプ級の搭載機定数である50機という数字は、格納庫専有面積の少ない戦闘機の搭載を前提としたものであり、ヨークタウン級と同様にバランスのとれた編成の航空隊を搭載した場合、これよりもかなり少なくなることが予想された。実際、40年代半ばに搭載機をF2AからF14Cに、太平洋戦争勃発直前にF14CからF15Cに機種転換した際に搭載機数は減少しており、その減少率は同様に機種転換を行ったヨークタウン級よりも大きく、ワスプ級の格納庫がかなり無理をした構造であることがわかる。
 また、母艦としての能力以外にも、ワスプは無理をした設計が多い。その大半は強引とも言えるカタパルト甲板の装備を行なったためである。
 本来カタパルト甲板が設置されるべき場所は錨甲板のスペースで、通常の船ならば上甲板となっている空間である。ここにカタパルトを設置してしまったため、ウインドラスやアンカーレセスが一甲板分だけ船体下部に下げられて、閉囲構造となっている。
 日本海軍の大鳳型空母などもエンクローズドバウを採用したため錨甲板が閉囲構造となっているのだが、ワスプ級のそれは面積のいるカタパルト甲板と甲板に埋め込まれたカタパルト機構によって空間が圧迫されているため錨甲板で作業する甲板員達の作業性すら低下させていた。
 さらに、カタパルト甲板の装備によって格納庫面積が少なからず減少していることに加えて、船体内の容積が不足してしまった。その為兵員室などの一部を収容するため原設計となったヨークタウン級やアーカム級と比べて艦橋構造物を大型化している。
 これでも容積は不足であったらしく、兵員室の一人当たりの面積は他艦と比べると小さくなっている。さらに容積の減少は倉庫にも及んでおり、米海軍参謀本部では他の空母と比べてワスプ級の経戦能力はやや低めに見積もられていた。
 また、ここまでして装備したカタパルト甲板だったが、乾舷が低いため荒天航行時にカタパルト甲板に波をかぶることもあり、カタパルト士官の悩みの種となることもあった。

 これらの多くのデメリットがあったにも関わらず、ワスプは迅速な航空機発進能力のおかげで随伴する戦艦部隊からの評価は高く、戦艦部隊の拡大にあわせて改設計型一隻の建造が議会によって許可された。
 改ワスプ級のエセックスは、随伴予定のアイオワ級巡洋戦艦に合わせて船体長の延長と機関出力の向上が図られ、最大速力が上昇している。
 両艦共に太平洋戦争中は戦艦部隊直衛の空母として防空戦闘に従事し日本海軍空母部隊の襲撃からよく自軍戦艦部隊を防衛したが、戦後は艦型が小さく大型化した艦載機の運用に支障が生じたこと、またカタパルト甲板がジェット推進機関の発進が不可能であったことから残存したエセックスはヘリ空母として改装された。




 



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