黒部型原子力防空巡洋艦





<要目>
基準排水量 13,100t   全長 205.0m  全幅 22.1m  原子力タービン 出力 79,000馬力(2軸)
速力 30ノット 乗員 980名

兵装
連装対空誘導弾発射器 4基
連装65口径10cm両用速射砲 2基
六連装対潜噴進弾発射機 1基

同型艦 天龍

 黒部型は、日本海軍が建造した初の原子力水上戦闘艦である。その建造目的は、日本海軍唯一の原子力空母飛天の護衛である。
 建造計画が策定されたのは飛天が建造中のことだった。当初より日本海軍は、原子力動力空母の無限に等しい航続距離を生かすために、護衛艦艇として原子力空母と行動を共に出来る原子力艦艇を考えていたのである。

 黒部型の最大の特徴は、新たに開発されたパッシブフェーズドアレイ固定式のレーダー(66式対空捜索電探)と連動するイルミネーター、高度な対空戦闘式能力が一体となった68式高射装置の採用である。特に艦橋から突き出した大型マストに装備されたフェーズドアレイレーダーは、黒部型の艦様を従来艦とは一変させたといえる。
 主兵装は四基装備された連装対空誘導弾発射機で、ほぼ同時に八発の対空誘導弾を発射でき、半数以上の五発を同時に誘導することが可能だった。
 また高射装置と一体化した対空管制能力は、多くの司令部要員を乗艦させていることもあって、自艦のみならず艦隊防空戦闘を指揮することが可能だった。
 対潜兵器はこの当時の日本海軍の標準兵器となっていた対潜誘導弾発射機を装備しているが、艦隊内部に収まらなかった区画を取り込んだ巨大な前後上構に挟まれているため、射界は狭く、至近距離における反応が遅くなっていた。そのため、日本海軍が黒部型以降建造した軽快艦艇は近接対潜兵器として短魚雷発射管を搭載している。

 誘導弾系統の兵装が充実している一方で砲熕兵器は等閑に付されている感があった。やはり標準兵器となっていた10センチ両用砲が両舷に一基づつ配置されているが、対潜誘導弾発射機同様に上構に射界が遮られており、特に高い全部構造物のせいで前方上方への射界はかなり制限されていたようである。
 当時の日本海軍が黒部型に期待していたのは誘導弾投射能力であって近接砲撃能力ではないということではなかったのである。しかし、黒部型建造の頃から対艦誘導弾に対する多層防御手段として小中口径の近接砲が見直されており、その意味では黒部型は時代に乗り遅れたとも言えた。

 当初の計画では従来型防空巡洋艦を置き換える予定だった黒部型であったが、一番艦黒部、二番艦天竜が建造された時点で建造計画は終了してしまった。表向きの理由はそのあまりの建造費の高さに議会が予算を認めなかったからだが、日本海軍自体も黒部型が実戦配備されてすぐに原子力艦艇に見切りをつけていたともいえた。
 無限に等しい航続距離、ほぼ常に発揮できる最大出力、それらの利点が水上艦艇においてはそれほどメリットとならないと判断されたからである。それに対してデメリットとなる原子力機関の製造、維持にかかる費用は予想以上に莫大であり、節約できるはずの就役期間の燃料費とはまったくつりあうことはなかったのである。
 就役前後に原子力保安区画の警備人員などの計画乗員が増大したため、居住区画の一人当たりのスペースは減少している。
 また、巨大な原子力区画が艦体中央部に配置され、その上部も対戦噴進弾発射機と予備弾格納庫区画に割り当てられてしまったため前後区画の交通に支障をきたすなど、原子力動力化による乗員区画へのしわ寄せは大きかったようである。
 さらに、太平洋の諸国には太平洋戦争緒戦でトラック諸島を壊滅させた原子力兵器に関する忌避感が強く、しばしば原子力艦の寄港拒否や反対運動が勃発した。
 原子力動力のメリットに関しても怪しいところがあった。空母のみならずその護衛艦艇までも原子力艦としてしまえば燃料を気にすることなく世界中に展開することが出来るはずだったが、国際連盟と対決姿勢を打ち出しているアメリカと違って、日本の場合は欧州諸国やその旧植民地という同盟国が世界中に散らばっていたからである。
 つまり戦闘中さえ航続距離がもちさえすればいくらでも燃料を補給できる拠点は存在するということである。また艦隊が消費するのは燃料だけではない。食料や真水、戦闘を行えば弾薬も消費するし、訓練された海軍軍人といえども長期間の艦隊勤務を続ければ陸地に上陸しての急速も必要である。つまりは燃料だけが無補給だったとしてもいつかは他の物資の補給のために寄港しなければならないのは原子力艦であっても変わらないのだった。
 その点において水中行動能力そのものを向上させる潜水艦の原子力動力化とくらべると、水上艦の原子力化は日本海軍にとってあまりメリットが感じられなかったのである。
 これは原子力空母のみならず、ロングビーチ級原子力巡洋艦の量産に踏み切った米国海軍とは対照的であった。米海軍は日本海軍と違って米ソ間という長大で途中寄港地の望めない通商路を防衛する必要があったため艦艇の原子力化に前向きであった。

 結局日本海軍は原子力水上艦艇の建造を黒部型二隻で打ち止めとし、次世代の対空巡洋艦は通常動力形となった。


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