ノースカロライナ級戦艦





<要目>
基準排水量 35,000t(公称) 全長 222.2m 全幅 33.0m  蒸気タービン 出力 121,000馬力(4軸)
最大速度 28.0ノット  乗員 1800名
最大装甲厚 舷側 305o 15°傾斜  甲板 150o  主砲防盾 400mm  司令塔 400mm

兵装
三連装45口径16インチ砲 3基(SHS)
連装38口径5インチ砲 12基
四連装40mm機銃 10基
水上機 3機


一番艦 ノースカロライナ
二番艦 ワシントン

 1930年代中盤、ワシントン軍縮条約は日本海軍の対英米比5対3から5対4への保有枠の拡大を条件に延長されることとなった。
 当然のことながら米国はこの条件に猛反発したのだが、日英は軍拡を続けるソ連の脅威を理由として強固に主張を続けた。
 米国にとって実質上の同盟国であるソビエト連邦が軍縮条約には未加入であり、それにも関わらず米国による技術支援を受けたソ連海軍は拡張を開始しており、日英露の三カ国を始めとする国際連盟諸国の大きな脅威となっていた。
 これを理由とした軍縮条約からの脱退を日英が示唆したことによって、両国が揃って軍拡に転じる危険性を考慮した米国政府は、米海軍の反対を押し切って条約の改正と延長に合意すると共に、さらなるソ連への援助を行なっていた。
 こうして日本海軍は新造艦の建造枠を確保して磐城型戦艦の建造を開始するのだが、同時に保有枠の変更が無かった米国海軍も旧式艦の代替艦の建造が認められることとなった。
 この代替艦建造枠として米海軍で建造されたのがノースカロライナ級戦艦だった。ノースカロライナ、ワシントンの二隻が建造された同級は、この時点で練習艦に改装されていたワイオミングを除いて最も旧式であった二隻のニューヨーク級とアーカンソーの三隻を代替する予定だった。

 ノースカロライナ級戦艦の最大の特徴は、英国海軍のネルソン級やフランス海軍のダンケルク級、リシュリュー級のように三基装備した主砲塔を艦橋前方に集約した前方集中配置にあった。
 兵装を一箇所にまとめることで、重点防御の対象となるバイタルパートを短縮し、結果的に軽量化が図られるとされたこの前方集中配置はこの当時の流行とも言えるものであり、条約の範囲内で16インチ砲を装備しながら攻速防の三点を高い次元で確保するための工夫であるはずだった。
 16インチ三連装主砲塔の配置は1,2番主砲塔が背負い式であるのは英海軍のネルソン級と同等であったが、三番主砲は後の日本海軍利根型軽巡洋艦のように後方を向いており、二番砲塔直後に配置されていた。これは火薬庫を集約させることで防御範囲を更に狭めるとともに、強力な爆風を生じる主砲を少しでも艦橋から遠ざけるための配置であった。
 主砲塔後方には前後部の艦橋とその間に配置された二本の煙突からなる上部構造物が設けられており、上部構造物の下部は長大な機関室がおかれていた。久々に新造された戦艦となるノースカロライナ級は、従来の低速な米戦艦の代替であると同時に、米海軍唯一の巡洋戦艦であるレキシントン級と共に運用する計画もあったため、28ノットという米戦艦としては高速を狙って、やはり米戦艦としては大出力の機関が搭載されていた。
 また上部構造物にはこの当時の戦艦としては標準的なレベルと言っても良い計24門の5インチ両用砲と対空機銃も装備されていた。
 上部構造物の更に後方には水上偵察・観測機を運用するための航空艤装が配置されていたが、主砲発砲による爆風が上部構造物に遮られるメリットの一方で、他艦と比べて後部甲板の面積が狭いために搭載機の取り回しが難しく、カタログスペック通りに3機を搭載して運用されるケースは少なかった。

 第二次欧州大戦の勃発とイタリアの脱退により軍縮条約が無効化となった後に、期待の新鋭戦艦として就役したノースカロライナ級戦艦だったが、実際配備された艦隊からの評価は決して高くはなかった。
 バイタルパートを効率化によって短縮するための主砲前方集中配置だったが、実際には高速を狙った長大な機関部のお陰でバイタルパートは当初の想定を超えて長くなっており、主兵装と機関部の重量を加えて条約の制限内に収めるためにバイタルパートの装甲は16インチ砲搭載艦としてはやや薄くなっており、主砲戦距離において自艦の主砲弾に対抗するのは難しいという巡洋戦艦としての傾向が強かったといえる。
 またその最大の特徴であった主砲の集中配置も、実際に運用してみると想定外のデメリットが多かった。
 艦橋からやや離れた箇所に配置してもやはり主砲の斉射をおこなう際に生じる爆風は凄まじく、着弾観測作業などがいささか困難だったと言われる。また重量のある主砲塔が前方に集中している為に特に弾庫に大重量の主砲弾を満載にしている際には艦首が沈み込みがちになるために運動性は極めて低く、艦隊行動時に他艦の足を引っ張ることが少なくなかった。
 実はこの前方集中配置は米海軍の敵手たる日本海軍でも同時期にメリットのみが取り上げられて設計案が持ち上がっていたのだが、ネルソン級戦艦の「失敗例」を英海軍から伝えられた為に最終的に前方集中配置が採用されることはなかった。フランス海軍でもリシュリュー級戦艦の後期型では主砲塔を前後に振り分ける形で改設計が行われる予定であった。
 米海軍でもこの後主砲塔の前方集中配置が採用されることはなかった。




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