九九式水陸両用戦車





<要目>
重量12.5トン、全長5.1m、エンジン出力220hp、乗員二名(車長兼砲手、操縦手)装甲厚15ミリ(最大)、武装46口径3.7センチ砲、7.7ミリ機関銃、最高速度40km/h(陸上)、10km/h(陸上)

 各国陸軍で重要な位置を占めていた騎兵部隊は、急速に進む機械化と火力の増強によりその威力が失われつつあった。日本陸軍も騎兵科の機械化を推し進めていたが、その一環で渡河能力をもつ偵察用の水陸両用車両の開発に着手した。
 この偵察車両の渡河機能の付加には、日本陸軍の仮想戦場であるシベリアーロシア帝国とソビエト連邦との実質上の国境であるバイカル湖南岸付近を迂回して、交通インフラの整備がなされていない北岸からの侵攻、迎撃作戦への投入が前提にあったと思われる。

 水陸両用の略でSR車と呼ばれたこの車両は当初は半装軌方式の独自開発されたものだったが、要求性能には達せずに開発は続行された。
 この際に従来型車両を原型として進める方針がとられSR第二次試作車は騎兵科が装備していた九二式重装甲車が使用されていた。このSR2も結局は要求性能には達しなかったが、開発の続行は決定していた。
 だが、SR2の開発に前後して騎兵科と歩兵科の一部が戦車部隊を運用する機甲科に独立統合されており、SR第三次試作車は機甲科独立後初の制式採用車である九五式軽戦車を原型として開発が進められた。

 九五式軽戦車を原型としたことから、これまでの試作車と比べて一回り大きくなったこの車両は水密性を向上させるために車体部を溶接構造にした上で本来の車体周辺に浮力を発生させる浮体を取り付けてあった。この浮体構造のため前部機銃は廃止され乗員は二名に削減されている。
 車体後部には水上推進用のスクリューが装備されていた。このスクリューはクラッチが装備されており陸上走行時は停止出来たが、水上走行時は推進源の一部とするため履帯は停止せずに、エンジンからの動力は履帯とスクリューに分配される。
 そのエンジンは吸排気路以外は原型である九五式軽戦車と同型の水冷ガソリンエンジンが搭載されていた。エンジン出力は九五式軽戦車のままだったが、水密構造による大型化などから最高速度は低下していた。
 水密構造がさほど必要とは思われなかったことから砲塔に関しては原型そのままのものが搭載され、兵装も対戦車砲と同様の3.7センチ砲及び7.7ミリ機関銃が搭載されていたが、装填手を含む砲手が車長と兼用することから額面通りの戦闘力を発揮するのが難しい問題があった。

 欧州での政治状況による軍備拡張を背景に制式採用された九九式水陸両用戦車は、第20師団などシベリアーロシア帝国派遣軍指揮下の陸海軍部隊の他、揚陸戦機材を優先的に配備された上陸部隊に指定されていた広島駐屯の第5師団の師団戦車隊などにも揚陸時の火力援護用として少数が配備されたが、渡河能力を持つ地形を問わずに走行できる偵察車両としてはともかく、旧式化した対戦車砲である3.7センチ砲では榴弾の炸薬容積の少なさなどから上陸時の火力支援を行うには過小であり、揚陸戦機材としての評価は高くはなかった。




 


戻る
inserted by FC2 system