四三式軽戦車





<要目>
重量7.3トン、全長4.1m、エンジン出力180hp、乗員三名(車長、砲手、操縦手)装甲厚14ミリ(最大)、武装46口径3.7センチ砲、7.7ミリ機関銃×1、最高速度55km/h

 日本陸軍が正式化した二式軽戦車は、戦闘能力の向上よりも九五式軽戦車の後継として運用することを前提として開発されたものだった。しかしながら九五式軽戦車が制式化された戦間期と比べると開戦以後の戦車技術の発展は大きく、対戦車戦闘に用いるには37ミリ砲はすでに威力不足を示すようになっていた。
 また、旧騎兵科が運用する捜索連隊配備の威力偵察用の車両としては、すでに大口径機関砲を搭載した装軌式の一式装甲兵車三型や、二式軽戦車と同じ砲を搭載しながらも装輪式であるため路外走行性能は劣るものの路上では最大速度時速70キロに達する高速の二式装甲車などもあったことから、本来の戦闘用途の軽戦車というよりも、装軌式車両故に戦車部隊に随伴する対空戦車や指揮戦車、砲兵用の観測挺進車として転用されることが多かった。
 その二式軽戦車の派生型の中では珍しく戦闘を主目的として開発された特異な車両が三式軽戦車であった。

 九五式軽戦車の近代化とも言える二式軽戦車に注目したのは、落下傘降下を行う大規模な部隊として整備が開始された挺進集団だった。
 従来文字通りの挺進、コマンド部隊としての性格が強く少数精鋭の特殊戦部隊であった機動連隊とは挺進集団はやや部隊の性格が異なり、より正規戦に投入される可能性が強かった。
 後方撹乱程度であればさほどの火力は要求されないが、正規戦の場合は空中挺進部隊といえどもある程度の戦力は必要であり、彼らは火力と機動性を併せ持つ戦車の配属を要求しており、その目に止まったのが二式軽戦車だったのだ。
 同時期、落下傘降下用の特殊な技量を有さない兵でも作戦に投入できる大型の滑空機が開発されており、大型の貨物輸送機のみならず開発中の滑空機に搭載して空挺降下作戦において投入可能となる改設計が要求された。

 この二式軽戦車に所要の改設計を実施したのが四三式軽戦車である。
 空挺戦車とでも呼称すべき四三式軽戦車の改設計が短時間で完了したのは、実質上二式軽戦車の軽量化でしか無かったためである。軽量化作業は大円匙や鶴嘴など車外の装備品をフックから廃止するまで徹底しており、戦闘に不必要な機能は多少の不便は承知の上でこそぎ落とされていた。
 車体中枢は二式軽戦車と同一だったが、フェンダーは簡易な形状のものに変更されていた。
 搭載されるエンジンも本体は同一であったものの、補機は簡易化されており、過給器と排気管は軽量化されたものが搭載されていた。このためエンジンの排気、吸気効率の低下から軸馬力は低下してしまっており、軽量化にも関わらず、四三式軽戦車の運動性能は二式軽戦車と同等にとどまっていた。
 最大の変更点は砲塔部であり、鋳造品と分厚い防弾板を溶接した三式中戦車と同様の構造を持つ砲塔とは異なり、二式軽戦車のそれよりも薄い防弾鋼板によって円錐状に組み上げられたもので、姿勢は低く車長が外部を視認する際に使用する全周視界を有する司令塔も廃止され、車長席上部は単純な蝶番式の扉とされていた。

 これらの軽量化を目的とした改設計により、四三式軽戦車の自重は原型の四分の三以下の七トン弱にまで削減されており、貨物輸送機での運搬や、滑空機を使用した空挺作戦への投入が可能となっていた。
 イタリア本土での作戦などに投入されて消耗した車両も少なくなかったため、総生産量は諸説があったが百両以下であったことは間違いなかった。

 四三式軽戦車で多用された装備としては英国軍のリトルジョン・アダプタ―を国産化した減口径器があげられる。これは発射されたタングステン弾芯を砲口に装備された細長い漏斗状のアタッチメントで絞り込むもので、これによる高初速化で貫通能力の向上を図るものだっただった。
 特に40ミリ級の旧式化した対戦車砲などの小口径砲を有効活用するための特別装備として開発されたリトルジョン・アダプターは、使用できるのが高価なタングステン弾芯を使用する徹甲弾のみで榴弾が使用できなくなることや、砲身に当初設計値以上の圧力がかかることによる砲身命数の著しい減少などの欠点が存在していた。
 通常の二式軽戦車を装備する部隊では、威力偵察などの際に歩兵部隊や対戦車砲を相手にするために榴弾を使用することも多く、この減口径器の装備は多くて1個小隊4両に付き1両程度の割合だったが、空挺作戦に投入される四三式軽戦車では場合によっては半数程度が減口径器を装着していた。
 空挺作戦時の空挺戦車に求められる能力は、降下直後の敵中で孤立した状態の空挺部隊に火力と機動性を供給するものであったが、その中には空挺堡への機動反撃に投入される可能性の高い戦車に対抗するものも含まれていた。
 この機動する対戦車砲とでも言うべき任務において、予想される現行敵戦車に対しては37ミリ砲ではすでに火力不足は明らかであるとともに、通常の二式軽戦車のように三式中戦車などの主力戦車の援護が得られない状況を強いられるために四三式軽戦車には減口径器が装備されていたようである。

 四三式軽戦車は幾度と無く実戦に投入されたが、損害も少なくなかった。空挺部隊からは重宝されていたが、それは滑空機を用いて空挺作戦に投入可能な装甲車両という点から評価されたのであって、決して軽戦車としての評価ではなかった。
 四三式軽戦車は軽戦車という呼称ではあったものの、実際には通常の軽戦車とは扱いが異なる純粋な戦闘車両としては制限の多い空挺戦車だったからである。


 


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