三式噴進砲




三式噴進砲(射撃状態)



三式噴進砲(分解状態)



<要目>
銃全長1500mm(分解時約800mm) 銃重量8300g
使用弾薬74ミリ噴進穿甲榴弾

 1930年代、シベリアーロシア帝国への軍事支援のため、仮想敵である数にまさるソ連軍戦車部隊と対峙せざるを得なくなった日本陸軍は戦車部隊の増強やロシア帝国への戦車輸出などと共に、全軍の対戦車能力の向上に乗り出した。

 その一環として大口径高初速の戦車砲、対戦車砲などの開発に平行して、歩兵部隊に配備する簡易な対戦車兵器の研究も進められていた。
 これは無反動砲、あるいはロケット推進による噴進弾という何らかの反動抑制手段を用いて大口径砲を簡素化、軽量化して歩兵部隊でも運用できるようにするもので、研究開始当初はこれらの方式に共通する弱点である初速の遅さから、想定される敵戦車の装甲板に対して有効な貫通能力が期待できなかった。
 1940年代に入ってからは、各国で導入が進められていた炸薬の爆発によって発生させた超高速の金属流によって装甲板を貫通させるモンロー効果を使用する成形炸薬弾を日本陸軍でも導入することで急速に実用化が進められた。

 これらの簡易な歩兵携帯の対戦車兵器の中で、噴進弾を用いるものとして開発されたのが三式噴進砲である。
 発射される噴進弾は実直径74ミリの成形炸薬弾で、試作時を除いて使用する砲弾は実質上ほぼこれのみとなっており、日本陸軍が対戦車能力を最重要視していたことが伺える。
 噴進弾の発射トリガーには電気信管が使用されており、引き金と連動して噴進弾の発射薬に着火するようになっていた。

 自己の推力で飛翔する噴進弾を使用するため発射時に砲内にかかる圧力は低く、口径の割に三式噴進砲は砲身肉厚が薄く軽量に仕上がっていたが、それでも重量は小銃の倍近く、全長も1.5メートルに達していた。
 行軍時には三箇所の蝶ナットで固定、分割して携行性を向上させていた。引き金や着火などの発射メカニズムを集中させた後半部と中間に折りたたみ式の二脚を備えた砲身に相当する前半部に二分割されており、三式噴進砲本体は一人で背負って携行することが出来た。
 しかし、噴進砲は自己推進によって発射されるため装薬以外に発射薬も口径に比して膨大な量が必要となるため砲弾はかなりの重量があり、本体を携行する射手の他、弾薬を運搬するほか発射時には装填作業を担当する弾薬手の二名で実運用されていた。
 場合によっては二分割された本体を各個に携行することもあり、生産された型式の多くは前半部にもハンドルが設けられていた。
 試作当初は、発射時に奮進弾から放たれる発射ガスが射手に膨大に吹き付けるため、射手は発射ガスの高温に備えるため防熱頭巾と革手袋を使用することとしていたが、運用性向上のため発射ガスを抑えこむとともに、一部を前方に吹き戻しさせて反動抑制の一貫を担わせるラッパ型砲口金具を備えたため小銃手と変わらぬ格好での運用が可能となった。

 北アフリカ戦線終盤からシチリア島上陸作戦頃から一部部隊での試験運用として配備が開始された三式噴進砲だったが、配備時は開発時に想定されでいた以上に各国に配備された主力戦車の装甲は強化されており、正面から敵戦車を撃破するのは難しく、側面を狙うように運用されていた。
 噴進弾の初速の遅さから実有効射程も短かったが、それ以前の破甲爆雷を用いた対戦車戦闘に比べれば格段に生存性も有効性も向上していたといえる。
 三式噴進砲は、比較的小口径の対戦車砲である速射砲を運用する歩兵連隊、大隊直下の対戦車部隊などに優先して配備された。



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