一〇〇式司令部偵察機一型、二型




一〇〇式司令部偵察機一型


一〇〇式司令部偵察機二型


<要目>
全幅14.7m 全長11m 自重3.4トン 乗員2名 武装7.7ミリ機銃×1(後方旋回機銃) エンジン出力1,080hp×2 最大速度610km/h 航続距離2,500km 一〇〇式司令部偵察機一型
全幅14.7m 全長11m 自重3.9トン 乗員2名 武装 無し エンジン出力1560hp×2 最大速度650km/h 航続距離4,000km 一〇〇式司令部偵察機二型


 1930年代後半になって、日本陸軍航空本部は兵器研究方針の改定によってそれまで曖昧であった偵察機の分類を明確に示した。
 主に師団司令部指揮下に分派されて前線直後の野戦飛行場などから発進して砲兵支援の弾着観測や敵部隊への直接攻撃を行う軽易な直協機。直協機と同じく野戦飛行場から発進するものの、敵前線部隊への攻撃よりも敵野戦飛行場などの重要施設の偵察、攻撃を実施する襲撃機と機体構造の多くを共有させた軍偵察機。この2つが従来の偵察機というおおまかな区分けしか無かった状態から区別されたのだが、この二種類に加えて敵部隊や施設への攻撃を前提には含めずに、敵地後方に隠密に侵入して航空作戦を実施するための情報を速やかに収集するための機体として司令部偵察機が設けられた。
 この司令部偵察機は航空部隊が独自に航空撃滅戦を実施するために策定された分類で、それまでの偵察機のように地上部隊の支援を行うのではなく、敵地に長駆侵攻して航空基地を偵察するための機体だった。
 司令部偵察機が得た敵基地の情報を元に、高速、長航続距離かつ重防護の重爆撃機が敵機の迎撃を振りきって滑走路等の敵航空基地設備を破壊、これにより敵航空勢力を無力化することで制空権を確保するのが、日本陸軍航空部隊が考えていた航空撃滅戦だったのである。

 航空撃滅戦を実施するために新たに策定された司令部偵察機として最初に開発されたのが九七式司令部偵察機だったが、この制式採用とほぼ同時に後継機の新司偵の開発も継続されることになった。
 後に一〇〇式司令部偵察機となるこの新司偵は、単独で敵地深くに侵攻するため、孤立無援な状態で敵機の迎撃網を突破することが前提となるために、何よりも敵戦闘機を振り切るための水平最高速度を重視し、次に航続距離を重視して開発された。
 九七式司令部偵察機と同じく三菱によって開発された一〇〇式司令部偵察機は、単発だった九七式とは異なり、金星エンジンのショートストローク版であるハ102を二基装備する双発機だった。両翼のエンジンナセルはハ102に合わせて成形されており、機体構造もエンジンナセル同様に流麗な形状となっていた。
 最初の量産型となった一型の時点で最高速度毎時600キロ超というこの時点での列強戦闘機の最高速度に匹敵するか、それ以上を発揮したのは、この空気抵抗を極限まで廃した機体形状が寄与するところも大きかった。
 また、二速式の過給器を装備したハ102のお陰で高高度性能もこの時代の機体としては高かった。

 九七式司令部偵察機の後継となる新司偵として無事就役した一〇〇式司令部偵察機だったが、それに前後して勃発した第二次欧州大戦に続々と投入される新型戦闘機は高速化が激しく、いずれは高速を誇る一〇〇式司令部偵察機も陳腐化する恐れも強かった。
 このため最高速度、高高度性能の向上を図る必要があった。この方針に従って開発されたのが一〇〇式司令部偵察機二型である。二型はエンジンをハ102ど同系統の金星、陸軍呼称ハ112に換装されていた。また搭載されたハ112は緊急出力向上装置として水メタノール噴射装置を備えていた。
 一〇〇式司令部偵察機二型のエンジンナセルは、ショートストロークのハ102よりも大口径のハ112を搭載するために一回り大きくなっていたが、基本線形は一型と同じく流麗な形状を保っていた。
 機体形状は二型となって一型以上に空気抵抗を低減するために、操縦席前方の風防を機首先端まで延長して段差をなくした完全な流線型としている。また窓枠もより少なくなっており偵察機で重要となる視界の向上を図っていた。
 これと大容量の燃料増槽の搭載によって最高速度の向上と航続距離の大幅な進捗に成功していた。
 また後部席周辺のレイアウトには基本的に変更は無かったが、一型の運用実績から旋回機銃を廃止している。これにより二型以降は一〇〇式司令部偵察機は完全に非武装となった。

 第二次欧州大戦においては、日本陸軍の始めての戦闘となった仏印侵攻から実戦に参加し、初期型である一型に続いて二型も戦線に投入されており、本格的に日本陸軍が投入された北アフリカ戦線では、すでに二型が司令部偵察機を使用する部隊の主力となっていた。
 一部の機体はモスキートよりも航続距離が長かったことから英国空軍に供与されて遠距離偵察機として使用されていたが、日本陸軍が航空撃滅戦用の機材としての役割の他に、独自に隠密偵察に使用することも多かったようである。


 


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