三式中戦車




三式中戦車(75ミリ砲装備初期生産型)



三式中戦車(75ミリ砲装備正規生産型)



三式中戦車(105ミリ砲装備火力支援型)



<要目>
重量35トン、全長6.6m、エンジン出力600hp、乗員4名、装甲厚80ミリ(最大)、武装38口径75ミリ砲(初期生産型)、56口径75ミリ砲(正規生産型)、20口径105ミリ砲(火力支援型)、12.7ミリ機関砲(主砲同軸)、7.7ミリ機関銃×1(随時司令塔に取付)、最高速度50km/h

 三式中戦車は、一式中戦車の後継として開発された日本帝国陸軍制式採用の中戦車である。三式中戦車の開発開始時期は早く、一式中戦車の開発終了と同時期であり、一部コンポーネントの開発は一式中戦車の制式採用前から開始されていた。
 仮想敵としていたのは、1930年代末から日本帝国陸海軍が意識し続けていたソ連軍の主力戦車であった。三式中戦車の開発段階では、すでにこのソ連軍主力戦車、T-34は独ソ戦線に出現していた。
 もっとも三式中戦車の開発段階にいたっても、日本軍が意識し続けていたのは現実に存在するT-34ではなく、彼らが想定していた幻の存在であったといえる。
 実際、完成した三式中戦車の主要目は、おおよそ日本軍が想定していたソ連軍主力戦車のものに近しいものになっており、この段階においてようやく彼らが満足しうる戦車を得られたともいえるだろう。

 三式中戦車の車体は、概ね主力戦車である一式中戦車を拡張したものであり、その構造も踏襲していた。エンジンも一式中戦車同様に航空機用転用の水冷ガソリンエンジンが搭載されいたが、このエンジンは旧式機搭載の流用ではなく当時現役のロールスロイス・マーリンを戦車用に改造したミーティアであった。
 ロールスロイス・マーリンは英国本土での生産の伸び悩みから同盟国であり、航空機用エンジン生産能力を持っていた日本帝国でもライセンス生産がされており、戦前から水冷エンジンを生産していた愛知航空機、川崎航空機に加え、英国資本とのつながりから石川島重工も生産に参加していた。
 これらの日本帝国で生産されたマーリンエンジンは、英国本土に輸出されて英国空軍機に搭載されたもの他、日本軍機にそのまま搭載されたものもあった。
 マーリン・エンジンの車載化バージョンであるミーティアエンジンは、スーパーチャージャーを取り外し、ガヴァナーを高速回転向きの航空機用のものから、高トルク低速の戦車向きのものへと換装したものであった。日本帝国でも重量化する一方の戦車に十分な機動性を与えるために大馬力エンジンの研究開発に取り組んでおり、マーリンエンジン転用のミーティアエンジンも研究試作の結果、日本帝国にも採用された。
 この日本帝国採用のミーティアエンジンは、石川島重工生産のものが使用されていた。石川島重工では元々航空機用ターボチャージャーやタービンエンジンの開発が独自に進められており、マーリンエンジンの過給器開発を通じて吸排気系統の技術開発が進んでいたことが主な採用理由であった。
 このため、日本帝国製のミーティアエンジンは一部の設計が英国製のオリジナルとは異なっていた。

 このような大出力のエンジンが必要となったのは大重量化した車体に十分な機動性を発揮させるためだったが、エンジンと同様に車両の機動性に大きく関わってくるサスペンションにはこれまでのシーソー式やクリスティー式とは異なる、新規開発の強力なダンパーと組み合わされたトーションバー方式が採用されている。
 このトーションバー方式は、一式中戦車の開発時から東北大学と日立製作所で研究開発が進められていたものが、三式中戦車の開発段階においてようやく実用段階に至ったものであった。
 従来、日本軍の主力戦車に採用されていた大口径転輪とコイルばねを組み合わせたクリスティー方式のサスペンションは、大重量を支えるにはコイルばねの設計が難しくなり、また高機動性と引き換えに急停止時等における動揺周期が長く、大口径砲のプラットフォームとしては必ずしも適しているとは言いがたかった。また履帯の脱落事例も少なくなかった。
 三式中戦車のトーションバー式サスペンションは、一式中戦車よりも小型の転輪をより多く搭載しており、大重量を幅広の履帯に均質に伝達するため、一式中戦車と同等の最高速度を発揮すると共に不整地踏破能力を向上させていた。

 三式中戦車の車体は、傾斜角度を付けた防弾鋼板溶接箱組構造で組み上げられており、前面の装甲は自車の主砲弾に1000メートル程度で耐えうる80ミリの厚みを持たされていた。これに対して、砲塔は側面、後部、及び一部の上面が装甲厚を柔軟に変化させられる分厚い鋳造構造で、上面、及び正面が防弾鋼板で後付け溶接されていた。上面は一式中戦車と同型の大型の車長用監視塔や装填手用のハッチなど開口部が多いために全面鋳造構造とならなかったのであろう。

 この重装甲に加えて三式中戦車には大打撃力を持たせるために3インチ級の主砲が搭載されている。
 当初三式中戦車の主砲として開発されていたのは、長砲身の56口径75ミリ砲だった。この砲は研究参考品として輸入された後にライセンス生産されていたボフォース社製の高射砲を原型として開発されたものだったが、開発段階においてより大威力を得るために、英国の17ポンド砲を参考にした薬室の増大や砲身の強化が行われたために車体部分よりも実用化が遅れていた。
 そのため、初期生産分の三式戦車は長砲身75ミリ砲の制式化が生産開始に間に合わなかったため、一式砲戦車の主砲として採用されていた38口径75ミリ砲が搭載されていた。なお、書類上は、他の戦車が発展型の開発と共に甲、乙あるいは一型、二型とサブタイプを類別されるのに対して、三式中戦車はあくまでも長砲身型こそが正規生産型であり、短砲身型はあくまでも暫定的な初期生産型であるため、とくに類別はされていない。
 正式書類上は75ミリ砲を装備した三式中戦車はすべて単一モデルであり、識別が必要な場合は初期生産型の方が短砲身型として記載されているのが確認されている。
 38口径砲と56口径砲は、砲弾直径こそ同じだが、砲身長に適合した発射装薬を使用するため弾薬は共通ではなく、56口径砲用のほうが格段に長い。前述のとおり56口径砲は薬室が強化されており、英国軍の17ポンド砲にほぼ匹敵する高初速砲だった。

 長砲身の56口径砲の方が長砲身やそれに対応した装薬量の多い長大な薬莢のおかげで格段に高初速であるため徹甲弾の貫通力は上回っていたが、その一方で榴弾における炸薬量は56口径砲の方が少ない傾向にあった。
 これは短砲身に比べて長砲身砲の方が装薬への点火から砲弾が砲身内を加速して砲口を飛び出すまでの時間が長く、それだけ高い圧力が砲弾にかかるために砲身内での炸裂を避ける目的で炸薬量を減らしても砲弾の強度そのものを上げなければならなかったためである。
 後に対歩兵、対非装甲車両に対する威力の面では、この強度の高い砲弾外殻を武器とするように破片の散布界が調整された新型榴弾の配備で改善されたが、原理上装薬量の少なさは変えようがなかった。
 また、長砲身の反動を低減するために強化された駐退機に加えて、装薬量の多い薬莢も短砲身型に比べて容積が大きくなることから、砲弾搭載量も長砲身型の方が少ない傾向にあった。
 ただし、カウンターウェイトを兼ねる砲塔後部の弾薬庫は、もともと56口径砲弾を搭載するために寸法が合わせて設計されていたため、咄嗟砲戦に重要な即用砲弾の搭載数は同等であった。

 また、三式中戦車には、高初速の戦車砲を搭載するものの他に、短砲身大口径砲を搭載する火力支援型の開発が同時並行で行われていた。これは一式中戦車に対する一式砲戦車に相当する支援用の戦車だったが、長砲身75ミリ砲という大重量の砲を搭載する三式中戦車であれば火力支援用の大口径砲でも搭載できると判断されたためである。
 搭載された砲は対戦車能力は低いものの、炸薬量の大きい砲弾を使用する20口径という短砲身の105ミリ砲だった。これは一式自走砲に搭載されたのと同じ九一式榴弾砲を原型とするもので、この当時の日本陸軍師団砲兵が使用するものと基本は同一構造であったが、戦車砲塔に搭載されたため最大仰角が抑えられており射程は短かった。
 ただし、師団砲兵が不在の際に遠隔地への火力投射を要求された105ミリ砲搭載型の三式中戦車が傾斜地に布陣して自車の仰角と合わせて大仰角で発砲して射程を延長した実績は残されていた。
 105ミリ砲搭載型の対戦車能力を向上させるために、成型炸薬弾も開発されていたが初速が低いために遠距離での命中率が著しく低下するため使い勝手はそれほど良くなかったようである。

 三式中戦車は、制式化直後から生産が開始され、北アフリカ戦終盤には短砲身の初期生産型が配備開始されていた。正式生産型の長砲身型は、優先的に機甲化師団である第7師団隷下の戦車連隊に、一式中戦車からの装備改変の形で配備が開始されており、シチリア島上陸作戦から戦線に投入されていた。
 ただし長砲身56口径砲の生産が伸び悩んでいたことから、短砲身38口径砲型の生産数も少なくなかったため、機甲化師団などには長砲身型が優先して配備されていたが、一部の部隊は終戦まで短砲身型の使用を継続していた。
 火力支援型の105ミリ榴弾砲搭載型は長砲身戦車砲搭載型の開発が優先されたこともあって、戦車砲搭載型にやや遅れてイタリア本土への上陸作戦が開始される直前に配備が開始されていた。
 英国軍等と同様に通常は中隊、大隊等の本部小隊の半数程度が通常の長砲身型を置き換える形で配置されていたが、第7師団等の一部装備優良師団では一式砲戦車の後継として砲戦車大隊に集中配備される例もあったようである。


 


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