一式自走砲





一式自走砲一型




一式自走砲二型



<要目>
重量15.7トン、全長5.70m、エンジン出力150hp、乗員5名、装甲厚35ミリ(最大)、武装38口径75ミリ砲×1、最高速度30km/h 一型
重量15.9トン、全長5.50m、エンジン出力150hp、乗員5名、装甲厚35ミリ(最大)、武装20口径105ミリ砲×1、最高速度30km/h 二型

 一式自走砲は、日本帝国陸軍が開発した初の本格的な自走砲であった。
 それまで運用されていた牽引砲と牽引車との組み合わせは、両者が連結されており、射撃の際は一度これを解き放たなければならなかった。そのため、砲列に着いてから射撃可能となるまで、あるいは射撃終了から移動開始までの時間が長かった。
 また、戦車などに比して、重量があるうえに二輪式の砲と連結された牽引車の速度や登坂力は劣っており、機甲部隊として再編成されていた第7師団などに設けられていた機動砲兵部隊からは改善要求が出されていた。
 これらの問題点を是正するために、野砲、榴弾砲を搭載した自走砲の開発が進められることとなった。

 砲自体を車体に搭載した上で軽易な装甲で覆うという形式そのものは、早くから構想されていたが、一式自走砲の開発は難航した。重量のある野砲、及び榴弾砲を搭載可能な手頃な既存の車体が存在しなかったからである。
 重量物である砲を搭載した上で十分な機動力を与えるには、当時の日本軍が装備していた牽引車では出力不足であり、母体は戦車とするほかなかった。九五式重戦車の車体は、大口径砲を搭載するのに十分な容積があったが、車体は旧式化しており、その構造も自走砲に向いているとは言いがたかった。だが、それ以外の戦車はいずれも軽量級であり、新鋭機動戦車である一式中戦車は未だ開発段階にあった。
 結局、自走砲の車体の母体には生産体制の確立した九七式中戦車を原型としつつ、容積を確保するために車体を延長して、履帯一枚分の独立懸架のサスペンションを追加している。
 それ以外の構造は概ね九七式中戦車を踏襲していたが、旧式なリベット構造は、車体の一部を残して大部分が溶接構造に変更されていた。一式自走砲の開発は主力戦車である一式中戦車の影でかなりの混乱を持って行われており、この設計変更前に発注されていたリベット構造用の鋼材は大部分が倉庫にしまい込まれることとなった。
 搭載を含め重量は増大したため、エンジンは九七式中戦車が搭載したディーゼルエンジンを原型として、気筒数の増大で出力向上を行ったものが搭載されたが、やはり同時期の一式中戦車などと比べると鈍足だった。

 一式自走砲に搭載された肝心の砲は、開発当時の師団砲兵隊の主力機材である7.5センチ九〇式野砲及び10.5センチ九一式榴弾砲が選択された。これは機甲師団隷下の機動砲兵連隊に所属する、それぞれの砲を運用する野砲大隊に配備するためであり、機動砲兵連隊全体の機動性を高める方針であった。
 搭載された砲に違いはあるものの、野砲を搭載した一式自走砲一型と榴弾砲を搭載した二型の構造は概ね同一のものであり、間接照準射撃を前提としていたため、前方、側面を覆う装甲板は軽易なものだった。それでも至近弾でない限り、弾片防護程度にはなっていたようであり、無防備な牽引砲と比べれば砲兵連隊の将兵の防護は向上されていたといえる。

 しかし、完成して機動砲兵連隊に配備された一式自走砲は、一型と二型ではやや異なる運用をされることとなった。実は一式自走砲の開発当時に、日本帝国陸軍は、師団砲兵火力の強化をはかっており、それまで各師団から独立して、軍司令部直轄の野戦重砲兵連隊に配備されていた15センチ級の榴弾砲を師団砲兵連隊に配備することを決定していた。
 これにより、それまで10.5センチ榴弾砲を装備する榴弾砲大隊1個、7.5センチ野砲を装備する野砲大隊2個で編制されていた師団砲兵連隊は、10.5センチ榴弾砲を装備する軽榴弾砲大隊2個と15センチ榴弾砲を装備する重榴弾砲大隊1個に改変されていた。
 そのような状況の中で、従来の7.5センチ野砲を装備した一式自走砲一型は浮いた存在となっていた。それでも機動砲兵連隊の機械化は急務であり、第7師団などの機甲化された師団の師団砲兵に一型、二型ともに一式自走砲が配備された。その為、日本軍の機甲師団は、強力な機動力を持つにも関わらず、火力が一般師団よりも貧弱というちぐはぐな事態に陥っていた。

 実際に配備された砲兵部隊では、やはり7.5センチ砲では第二次欧州大戦の戦況では火力不足を露呈しており、大口径の15センチ榴弾砲の自走化を図るとともに、一式自走砲一型は間接照準射撃ではなく、もっぱら直接照準を行う対戦車砲として運用された。
 しかし、同時期に戦車連隊に配備された一式砲戦車と同様の砲を装備しているのにもかかわらず、装甲は薄く、完全に覆われてもいないため、損害は少なくなかった。


 


戻る
inserted by FC2 system