第九話:満州戦車戦






    1945年 8月13日 チチハル郊外

 不和大尉が率いる戦闘団が攻撃発起点に到着するまで意外なほど時間がかかっていた。そうなった原因は、チチハルを中心とした警戒網をすり抜けるように大きく迂回してきたからだった。ソ連軍の配置に大きな動きは無いようだが、あまり時間に余裕があるとは思えなかった。
 旅団本部に発起点到着の通信を送ると不和大尉は監視塔から半身を乗り出して周囲に展開している戦闘団を見回した。戦闘団と言っても戦車第24連隊の第一中隊と第二中隊を中核とした小規模な戦隊だった。

 具体的には戦車二個中隊を中核戦力として機動歩兵一個中隊、機動砲兵一個小隊で強化されていた。機動歩兵、機動砲兵ともに装軌式の車両を使用しているから、小規模な編成ながら火力と機動力に優れる部隊が出来上がっていた。
 当初、戦車一個中隊程度の戦力になるはずだった戦闘団がここまで大規模な戦力になったのは辻大佐が強弁に自説を通したからだ。どうやら辻大佐は戦闘団を単なる陽動作戦ではなく本当にチチハルに突入させるつもりらしい。

 だが不和大尉は作戦がうまくいくとは思えなかった。それどころか旅団のあまり多いとはいえない戦力を二分してしまっただけになるかもしれない。この程度の戦力を分派するよりも旅団主力で一斉に攻勢をかけた方が良かったのではないのか、そういう思いを捨てきれないでいた。

 だが、すでに作戦は始まっている。今は余計な考えは捨てて作戦遂行に集中すべきだった。
 一度大きく息をすると不和大尉は前方に向き直った。起伏に隠れて直接視認することはできないが、その方向にチチハルの市街が存在していた。

 すると不和大尉が乗車する五式中戦車の脇にするすると九三式側車付自動二輪車が寄ってきた。側車には機動旅団の神咲少尉と草薙軍曹が乗車していた。奇妙なことに運転しているのは神咲少尉の方だった。草薙軍曹は馬鹿馬鹿しいほど巨大な小銃を抱きかかえるようにしている。
 神咲少尉は側車側にくくり付けられた無線機を示してからいった。

「市内の藤田少佐から連絡です。チチハルに到着していた列車から部隊が展開した様子があるそうです」
 不和大尉は眉をしかめた。ソ連軍はやはりこの時間に防御体制を築きつつあるのではないか、そう思えた。
「具体的に展開中の部隊について何か話していたか」
「いえ、特には聞かされていませんでした。ソ連軍も警戒しているでしょうからあまり近づけなかったのではないでしょうか」
 それだけ聞くと不和大尉は、監視塔の縁に持たれかかりながら考えた。本来の作戦では旅団本部と同時に攻勢をかけることになっていたが、現在の状況を考えるとあまり現実に即した計画とは思えなくなってきていた。

 結論はすぐに出た。当初の作戦を愚直に守るよりも今すぐにチチハルに向けて進撃を開始するべきだ。ソ連軍は急速に防御体制を整えつつあるようだった。それならば巧遅よりも拙速をとるべきだった。 ソ連軍の防御体制がまだ整う前に市街地に突入してしまうのだ。
 ソ連軍は大火力での支援砲撃を得意としているから、彼らに体制を整わせてしまえばチチハルに接近する前に砲撃で戦力を消耗してしまうだろう。

 決断した後は不和大尉は迷うことなく無線機を手にした。旅団本部には事後承諾という形になってしまうが、戦闘団を任された以上その程度の権限はあるはずだった。旅団司令部に進撃開始を連絡すると不和大尉は無線を隊内通信用の周波数に切り替えた。
「これより不和戦闘団はチチハルに向けて進撃する。戦車第一中隊が先頭、後衛は第二中隊、機動歩兵は中衛に入れ。機動砲兵はできうる限りこれに追随しろ」

 おそらく砲兵隊は遅れるだろうな。不和大尉はそう思った。教導戦車旅団に所属する機動歩兵大隊は九八式牽引車を使用して十五センチ榴弾砲を運搬していた。九八式牽引車は性能の優れた牽引車ではあったが、五式中戦車や一式半装軌装甲兵車と比べれば最高速度は格段に劣っていた。

 だが砲兵部隊なしでもチチハル突入は可能だろう。不和大尉はそう考えていた。むしろ市街戦になれば砲兵部隊はその長射程を生かすことなく遊兵化してしまうのではないか、そう考えていた。
 間接砲撃を行う砲兵部隊には絶え間ない着弾観測が要求される。だが状況が流動しやすい市街戦でそんな悠長なことを行う余裕はなくなってしまうのではないのか。そう考えていたのだ。
 だから不和大尉は少しくらい砲兵部隊が遅れてもかまわないと考えていた。それよりもは戦車と歩兵だけでも迅速にチチハルに突入すべきだ。

「戦車前へ」
 最後にそう命令すると、待機状態で出力を絞っていた戦車達の機関が一斉に高鳴った。不和大尉にはそれはまるで戦車が戦を前にしてあげる咆哮に思えていた。
 監視塔から上半身を突き出したまま不和大尉は車内無線で操縦手に行き先を指示した。不和大尉車を先頭にして支隊は前進を開始した。本来なら支隊指揮官である不和大尉はもっと後方に位置するべきなのだが、即席の部隊を把握するためには最前線での指揮が必要だった。
 指揮官先頭で戦意を高めるというだけではない。真っ先に敵を見つけることのできる位置が必要だったのだ。いち早く指揮官が敵情を把握することができればこちらの体制を余裕を持って整えることが可能だからだ。
 しかし不和大尉の五式中戦車と併走する車輌があった。神咲少尉たちの側車だった。不和大尉は後方に下がるように神崎少尉に合図したが、少尉は合図を理解しなかったのか不和大尉に向かって叫んだ。

「自分らが先行して敵情を視察してきます」
 それだけ言うと神埼少尉は無言で周囲を監視する草薙軍曹を乗せて側車を加速させた。不和大尉にはそれを止める暇さえ与えられなかった。
「なんて奴らだ。命令もなしに勝手に動きおって」
 そう愚痴をつぶやくと御神曹長は不和大尉をなだめるようにいった。
「機動旅団というのは下士官であっても自分の判断で行動することが多いそうですからね。それだけ少人数での作戦が多いのでしょう。彼らには大部隊と同行させるよりも単独で行動させた方が効率がいいのかもしれませんよ」
 それで納得する気にも慣れなかったが、ここで愚痴を言うのも筋違いである気がして不和大尉は押し黙った。そのまま不和大尉は周囲の監視を続けた。この調子なら数十分ほどでチチハルに突入できるだろう。
 しかし僅か数分でその予想は裏切られた。慌てた様子で神咲少尉が側車を走らせてきたからだ。不和大尉が不審に思って戦車隊を停止させると、神咲少尉は急いで五式中戦車の砲等によじ登って言った。

「数キロ先でソ連軍の機甲部隊が待機中です」
 息せき切って神咲少尉がいうのを呆気にとられて不和大尉はきいていた。神咲少尉が言うとおりならチチハルのこちら側にソ連軍が布陣していることになる。それは日本軍の奇襲攻撃が看破されていたということだろうか。


    1945年 8月13日 チチハル郊外

 僅かな地形上の起伏から双眼鏡を突き出すようにして、不和大尉はチチハル郊外に展開するソ連軍部隊を監視していた。神咲少尉の言うソ連軍機甲部隊は郊外で防御体制を敷くわけでもなく、ただ待機をしていた。この距離からでも兵達にそれほど緊張感が見られないのが見えた。
 どうやら不和戦闘団の存在に気が付いて配置された部隊ではないようだった。それに日本軍を迎撃するにしては奇妙な行動をソ連軍機甲部隊は取っていた。車輌群はこちら側に側面か背を見せているし、中には補給を受けている真っ最中の車輌もあった。

 すこしばかりソ連軍の様子を観察してから、不和大尉は双眼鏡をおろした。そのままゆっくりと後方へと下がると様子を伺っていた神咲少尉に言った。
「間違いないな。あの部隊は本隊を側面から突くつもりだ」
 ここまで二人を運んできた側車にまたがったまま神咲少尉は首をかしげながらいった。
「しかし彼らは本当に我々の存在に気が付いていないのでしょうか。あまりにも彼らは無防備すぎます」
「おそらくソ連軍は寡兵である我々がさらに分派する可能性を考えていなかったのではないかな。ソ連軍の基本戦術は大火力と大兵力を生かした突撃でしかないから、我々とは考え方も違ってくるのだろう。それよりも早く部隊をここに持ってこなければならない、急いで帰るぞ」
 そういうと不和大尉は側車に乗り込んで周辺の地形図を取り出した。といっても大した作業があるわけではない。作戦に必要な地形情報を再確認しただけだ。側車はすぐに戦闘団を休止させている場所にたどりついた。

 この偵察を行った時間のおかげで砲兵部隊も到着していた。不和大尉が偵察に出る前に集合命令を出していた各隊の指揮官は、不和大尉の五式中戦車の前に集まっていた。

「これより不和戦闘団は前進して攻撃待機中と思われるソ連軍機甲部隊を攻撃する。機甲部隊が狙っているのはおそらく教導戦車旅団本隊だろう。当初の作戦とは変わるが、これを拘束することで本隊を支援するものとする」
「敵部隊の規模はどの程度でしょうか」
 機動歩兵中隊の中隊長が尋ねた。不和大尉はあまり認識が無かったが、実直そうな男だった。
「おそらく大隊から連隊規模だろう。さっき見た限りでは砲戦車や中戦車しか見えなかった」
 そういうと不和大尉は地図を手にして簡単に作戦を伝えた。作戦とはいってもさっきの場所から戦車隊と砲兵で制圧を行い、敵部隊が動くようなら戦車隊単独で機動するという、ある意味出たとこ勝負でしかない。

「砲兵部隊は直接照準で敵を狙い続ければいいのですな」
「そうだ、いくらソ連軍の戦車が重装甲でも10センチ榴弾の重量ならば易々と破壊できるはずだ」
 砲兵隊隊長は僅かに眉をしかめてうなずいた。おそらく直接照準での砲撃を懸念しているのだろう。ソ連軍と違って日本軍ではあまり対戦車任務に砲兵部隊は使わないからだ。不和大尉は付け加えるようにしていった。

「機動歩兵中隊は砲兵の護衛として周囲に展開していてくれ」
 機動歩兵中隊の中隊長は明らかに不満そうな顔をして嫌々うなずいた。不和大尉は苦笑しながらいった。
「すまんが今回は貧乏くじを引いてくれ。相手をするのは大軍なんだから、最初の奇襲でできるだけ喰ってから、後は機動戦で翻弄するしかない。歩兵部隊の射程まで近寄るわけにいかんのだ。それよりも万が一、砲兵にまで敵が寄ってきた場合は君達の出番になる」
 中隊長は首をすくめていった。
「了解。大砲には指一本触れさせません」
「頼むぜ、俺達は近接されればおしまいなんだから」
 冗談めかして砲兵隊長はいったが、あながち冗談であるとも思えなかった。機動砲兵とはいっても教導戦車旅団所属の砲兵は牽引式の10センチ榴弾砲を使用している。中途半端な火力では本来支援される側の戦車隊の方が大火力であるということにもなりかねないからだ。
 牽引式の火砲は強力だが、一度発射体制をとると陣地転換は容易ではなかった。そして薄い防盾以外は暴露されているから被弾にも弱い。だから、歩兵部隊による支援はこの場合必須だった。

「自分らはどうしましょうか」
 そこに自信なさげな声が聞こえた。不和大尉が振り向くと神咲少尉が申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。他の部隊長はあるものは興味ありげに、またあるものはしらけた顔で神崎少尉を見た。神咲少尉は正確には戦闘団に編入されているわけではない。それどころか教導戦車旅団の一員ですらない。
 不和大尉は困惑していった。
「神咲少尉にはその側車をまかせるから自由に行動してくれ。一応何か市街地に潜む諜報員から連絡があればこちらに伝えるように」
 要するに邪魔をしない限り勝手にしていろというのだが、神咲少尉は気にした様子も無かった。
「では、自分らは独自に行動をさせてもらいますので」
 そういうと神咲少尉は側車付き自動二輪車にまたがった。草薙軍曹は相変わらず無表情で側車に乗り込んだ。二人を乗せると側車はすぐに発進した。どうやら敵部隊のさらに側面に回り込むつもりらしい。

 不和大尉は彼らの姿が消える前に五式中戦車によじ登った。
「全員持ち場にもどれ、直ちに前進する」
 開け放たれていた監視塔から車内に滑り込むと不和大尉はマイクに向かって叫んだ。
「砲兵より移動始め、これより敵部隊側面を突く」


    1945年 8月13日 チチハル郊外

 先行する機動砲兵隊の10センチ榴弾砲と牽引車を追い抜かすと、五式中戦車の二個中隊はソ連軍部隊からの視線を遮る稜線に近づいた

 直前に縦隊から横隊に切り替えると一斉に稜線を駆け上がった。不和大尉の五式中戦車はその全身をさらすことなく、砲塔と車体上部のみを稜線の上に出してからそこに急停止する。大尉が周囲を確認すると中隊僚車もそれぞれの位置で脆弱な車体下部を隠したまま砲塔のみを突き出している。

 急停車による車体の動揺がおさまらないうちに、御神曹長は88ミリ砲の発射ボタンを押した。88ミリ砲弾が着発するとすさまじい勢いで砲座が交代した。一瞬、車内が砲煙で満たされてから発砲前から始動させておいた換気扇によって車外に排出されていく。
 砲煙は砲口からもあがっていた。車内よりも激しい勢いの砲煙によって、砲口前に砂塵が巻き上がっていた。御神曹長は砂塵と砲煙を通して標的となったソ連軍をにらみつけた。どうやら砲弾は狙ったところにうまく着弾したようだ。

 御神曹長が狙っていたのは、ソ連軍の後方で補給を行っていた自走対地ロケット砲部隊だった。スターリンのオルガンと呼ばれている自走対地ロケット砲は、汎用性の高い自動貨車に簡易な構造の多連装ロケット砲を組み合わせたものだ。装甲もなきに等しく、構造も簡易だが、数を揃えやすく、また機動性も高いことから攻撃に使われれば大きな脅威となった。

 しかし大型の対地ロケット砲弾は輸送中は脆弱だった。あまり頑丈ではない砲弾は容易に誘爆する。御神曹長の狙いもロケット砲弾を誘爆させることだった。だから車体の動揺が収まる前に、照準が甘いままで発砲していた。直接ロケット砲を狙うのではなく、心持手前に着弾するようにして、弾種は榴弾を選んでいた。

 その効果は絶大だった。榴弾の破片は、ある程度の距離を置くことで広い範囲に拡散した。その破片のうちいくつかはロケット砲弾に見事に命中したようだった。この距離からでもよく見えるように着弾や発砲によるものではない火炎が自走対地ロケット砲の周りで巻き起こった。

 中隊僚車からも狙われていた対地ロケット砲部隊は、ただの一撃で壊滅的な被害を受けたようだった。三十両はいたはずの自走対地ロケット砲は、数射しただけでその数を半数以下に減らしていた。さらに誘爆したロケット砲弾は周囲の部隊にも被害を与えたようだった。

 その光景を見ながら不和大尉はにやりと笑みを見せた。ソ連軍機甲部隊は、日本軍の奇襲によって混乱に陥っていた。この混乱に乗じてさらに打撃を加える必要があった。大尉は監視塔の中で振り返った。後方にある丘では10センチ榴弾砲が砲兵隊によって据え付けられ射撃体勢が整いつつあった。
 砲兵の射撃開始までは、この混乱を持続させなければならない。そう考えると不和大尉は通信機を隊内に切り替えていった。

「第一中隊は躍進射に切り替え、第二中隊はこの場で射撃を続行、砲兵と歩兵を支援しろ。第一中隊われに続け」
 すばやく不和大尉は車内通信に切り替えて前進全速といった。その前から命令を予想していた操縦手は、五式中戦車を機関出力最大で前進させた。急発進の衝撃を監視塔につかまってやり過ごすと不和大尉は後方を振り返った。第一中隊の僚車は遅れることなく発進していた。

 第一中隊は隠顕砲塔戦術から脱すると、車体をさらして機動を始めた。不和大尉は、こちら側から見てソ連軍の側面にあたる方向に中隊を移動させていた。牽制のために最小限の砲撃を中隊で交互に実施する以外は最大速度で移動を行った。

 不和大尉の狙いは、脆弱な補給部隊だった。攻勢準備を行っていたソ連軍機甲部隊にはついさっきまで大量の自動貨車によって補給が行われていた。これだけの大部隊に対して一気に補給を行うのだから補給部隊もかなりの規模のようだった。
 補給部隊の離脱は確認していないから、まだこの部隊に紛れ込んでいるはずだった。不和大尉が補給部隊の自動貨車を探して周囲を見回していると、御神曹長が先に自動貨車を見つけたらしく大尉にいった。

「前方二百、こっちに自動貨車が群れてきますよ」
 どうやら、この場を離脱しようとしているうちに混乱に巻き込まれて見当違いの方向に出てきたしまったらしい。御神曹長は今にも発砲しようとしていたが、不和大尉はそれを制した。
「増速しろ。このまま踏み潰せ」
 操縦手が興奮した様子で返事をした。五式中戦車は自動貨車の群れを食いちぎるようにして突っ込んでいた。40トンを越える五式中戦車はその重量と速度でもって自動貨車に激突した。

 予想したよりも小さな衝撃が車内を走ると僅かに車体が持ち上げられるのを感じた。破壊された自動貨車にのし上がっているのだろう。御神曹長は同軸機銃で周囲を掃射していた。逃げ出そうとしていたソ連兵の多くは機銃で打ち倒されていた。中隊僚車の中には戦車長用の対空兼用機銃で掃射しているものもあった。
 不和大尉が言ったとおりに砲弾を使用するまでも無かった。直前まで五式中戦車に気が付かなかったソ連軍補給部隊はただ一度の邂逅で大半が横転し破壊されていた。
 誘爆した砲弾によって巻き上げられた砂塵を後ろにして、第一中隊は今度はソ連軍機甲部隊の本隊に食らい付こうとしていた。

 10センチ榴弾が発射されたのはその瞬間だった。

 五式中戦車の88ミリ砲などと比べて、初速こそ劣るものの砲弾重量が大きい10センチ砲の威力は絶大だった。突然の襲撃に対して、方向転換して迎撃しようとしていた駆逐戦車が榴弾に側面を叩かれて文字通り破砕された。
 装甲車輌に命中しなかった砲弾も周囲に着弾して被害を与えていた。中には展開しようとしていた歩兵部隊の真ん中に着弾して一個小隊を戦闘不能に追い込んだ砲弾もあった。

 不和大尉は襲撃の成功を確信した。機動砲兵による砲撃によってさらにソ連軍は混乱しつつある。不和大尉はこれ以上第一中隊を前進させる必要はないと思った。この場で停車して離脱しようとする部隊を狙撃するだけで十分だろう。
 そう判断すると不和大尉は、操縦手に五式中戦車を停車させた。その瞬間、急停車によるものではない衝撃が五式中戦車を打ち据えた。

 慌てて不和大尉は監視塔から周囲を観察した。今のは明らかに敵の砲撃だった。しかもかなりの至近弾となった。もしそのまま走行してれば敵弾は命中していたかもしれない。車内に発砲をみたか尋ねたが、誰も見ていなかった。
 とりあえず発進を命じると同時に再び衝撃があった。今度も至近弾だったが、さっきよりも弾着は正確になっている。車外装備品のいくつかは持っていかれたかもしれない。

 今度は発砲の瞬間を目撃することができた。砲煙の向こう側にかすんでみたのは一個中隊のスターリン重戦車だった。



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