第七話:満州戦車戦






    1945年 8月13日 チチハル郊外

 一撃で先頭車両を屠られたスターリン戦車は全速で中隊に向かってきた。五式中戦車が相当な遠距離からスターリン重戦車を撃破したものだから、ソ連軍は五式を大威力の主砲を持った重戦車と読み間違えたのだろう。
 確かにハルビンをめぐる戦闘に投入された四式重戦車は、スターリン戦車をも越える装甲と火力を持っていたからそれと誤認したのかもしれない。
 スターリン戦車は四式重戦車と戦うときは接近しなければならなかった。スターリン戦車の主砲である122ミリ砲は四式重戦車が装備する105ミリ砲と比べて口径の点では勝るが、貫通力では劣っていた。
 だから重装甲の四式重戦車を撃破するためには多少の損害は無視してでも接近して乱打戦に持ち込むしかない。だがそれは五式中戦車とスターリン戦車にも当てはまる。
 五式中戦車が装備する長88ミリ砲では遠距離でスターリン戦車を撃破するのは難しい。今、スターリン戦車を撃破することに成功したのは中隊の火力を一両に集中させて、また遠距離でも威力の落ちないタ弾を使用していたからだ。
 スターリン戦車と同数の五式では正面きった戦いで勝利を収めるのは難しかった。それに敵には補助戦力としてT−34までいる。
 だがソ連軍がこちらを重戦車と誤認してくれたことで、わざわざソ連軍の方からメリットの少ない接近戦を挑んできてくれていた。
 もちろんこちらも危険であることには代わりは無いのだが、遮蔽物の無い荒地を接近するスターリン戦車と簡易ながら戦車壕に入った五式では被弾率が違っていた。
 スターリン戦車は五式の攻撃を恐れていないかのように遮二無二接近してくる。だが乗り込む戦車兵は内心びくびくしているはずだ。そこに五式の第二斉射が着弾した。
 第二撃は不破大尉の指揮車の発砲を合図として行われた。だから僅かに着弾のタイミングが違う。今度も攻撃はタ弾で行われた。だが最大速度で移動するスターリン戦車に命中したのは半数程度だった。
 命中したスターリン戦車は最初に撃破された戦車の代わりに先鋒の位置につけた車両だった。着弾の瞬間、巻き上がった砂塵によってそのスターリン戦車は隠された。
 砂塵がだんだんと収まって、命中したスターリン戦車を確認できるようになってもその車両は停止していた。
 不破大尉は不意に眉をひそめた。今度は先頭車両を撃破することは出来なかったようだ。その直後にスターリン戦車は機関を再始動させた。
 しかし第二撃めは敵戦車を撃破することは出来なかったが、楔陣の進行を遅らせることは出来たようだ。先頭車の停止と同時に他の車両の動きから精彩が消えた。突っ込んでいいものかどうか戦車長が判断に戸惑ったのだろう。
 先頭車が動き出してからも他の車両と比べて停止していた分の距離ギャップのせいで楔陣の連携は当初ほどではなくなっていた。
 そしてお互いの距離が1000メートルをきった所でスターリン戦車が停止した。今度は互いの発砲がほぼ同時だった。
 この距離ならば五式中戦車の長88ミリ砲でもスターリン戦車を徹甲弾で撃破することは可能だった。すでにスターリン戦車との距離が1000メートルを切った場合は、徹甲弾を各車の判断で撃って良いと命じてある。
 だから五式から放たれた弾丸は今度はすべて高速徹甲弾だった。その徹甲弾でスターリン戦車は二両がその場で擱座した。しかも今度は車体や砲塔の装甲を正面から貫いている。擱座したスターリン戦車の一両は弾薬に引火したのかハッチから火炎流を勢いよく吹き上げさせた。
 他のスターリン戦車は見た目からは貫通跡以外は損傷が無いように見えた。しかし今度は機関の再始動も起こらなかった。エンジンか主要な戦車兵に打撃を与えたのだろう。幾人か人数の少なくなった戦車兵が脱出するのが見えた。
 不破大尉が見る限り他の戦車にも何発か命中したようだが、擱座したスターリン戦車は二両だけだった。角度が悪いか、それともこの距離でも威力が不足するのかもしれない。
 スターリン戦車はその重装甲を被弾経始を取り入れた設計で傾斜させている。命中した角度次第では十分な威力のある徹甲弾でも弾かれる可能性は高かった。
 だがスターリン戦車に与えた損害を詳しく評価する前にすぐ近くから爆発音が鳴り響いた。僅かに遅れて装甲を何かの破片が叩く音が聞こえた。
 不破大尉は慌てて監視塔の狭い隙間から爆発音がした方向を見た。するとすぐ脇にいたはずの副官車が吹き飛ばされているのが見えた。
 おそらく122ミリ砲弾が直撃したのだろう。副官車の五式中戦車は車体の残骸が残るだけだった。あるいは砲弾に引火したのかもしれない。車体から吹き飛ばされた砲塔は数十メートルも離れた所で燃え盛っている。
 周囲は機銃弾が誘爆する音が聞こえていた。砲塔からも車体からも燃え盛る副官車の残骸から脱出した乗員はいなかった。
 不破大尉は意識しながら副官車の姿から目を放した。スターリン戦車は再び接近を始めていた。それをにらみ付けながら不破大尉は無線機を取り上げていた。


    1945年 8月13日 チチハル郊外

 副官車が撃破され十三両となった五式中戦車は、不和大尉の命令を受け取ると一斉に外装されていた煙幕弾発射機を作動させた。
 数メートル上空まで打ち上げられた煙幕弾は白煙を噴出させ始めた。たちまちのうちに第一中隊の姿が隠された。不和大尉はそれを確認するとさらに通信を送った。
「各アオ、機動開始」
 その命令を心待ちにしていたかのように一斉に五式中戦車の機関が咆哮した。簡易壕を後ろ向きに抜け出すと五式中戦車はあらかじめ定められたルートにしたがって機動を開始した。
 煙幕弾が作り出した白煙の中でも良く訓練された戦車兵たちは落ち着いて行動していた。中隊長車を先頭としてほぼ一列縦隊に近い隊列で煙幕の中を駆けた。
 どうやらスターリン戦車は静止したままらしい。煙幕越しに射撃を試みていた。今度は一斉に砲撃しているのではない。おそらく煙幕越しに視認した砲手に砲撃を任せているのだろう。四式重戦車の速度に合わせているであろう砲撃は五式中戦車の高機動に幻惑されて命中弾は出なかった。
 だがすぐに第一中隊は煙幕を突き抜けるようにして出現した。十四両の五式中戦車は薄くなりかけていた煙幕を抜けるとわき目も振らずに最大速度でソ連軍戦車態の左翼へと回り込もうとしていた。
 スターリン戦車は戸惑ったように一瞬静止した。そこへ五式中戦車が走行間射撃を行った。最大速度で疾走する車上からの砲撃は、いくら目標が静止しているからといって容易に命中するものではない。
 だが幸運にもスターリン戦車を狙った砲弾が後方のT−34に命中した。側面から長88ミリ砲弾をまともに喰らったそのT−34は車体を一瞬振るわせた。そして次の瞬間砲弾が誘爆して砲塔が空高く吹き飛ばされた。
 ソ連軍戦車は予備砲弾が衝撃によって誘爆しやすいという話は本当のようだった。というよりも被弾後の事を無視して設計されている節があった。
 ソ連軍の戦車ドクトリンは大群の戦車で押しつぶすというものだから生産コストを上げるような工作は省いているのかもしれない。民族性なのか設計に凝り性が見える独逸や日本の戦車とは好対照だった。
 破壊されたT−34の砲塔が地上に落下する前に、爆風と破片が周囲に広がった。そのT−34にしがみ付いていた乗車兵は勿論、周囲の戦車に乗っていた兵たちも破片や爆風によってなぎ倒されていた。
 その光景を視界の端に捉えて不和大尉は凄惨な笑みを浮かべた。
 ――悪いなソ連人。恨むんなら楔陣形を取るのに夢中で車間距離をとり損ねた阿呆な指揮官を恨みな。
 不和大尉の独白が聞こえたわけでもないのだろうが、スターリン戦車が一斉に砲身を振った。こちらに砲塔を向けてくる。笑みを消すと不和大尉は慎重にタイミングを測り始めた。
「操縦手、合図と同時に停止。着弾を確認したら再発進」
 車内無線から了解電が帰ってくる。今までは肩を蹴り飛ばして合図していたものだが、五式中戦車には高性能な車内無線機が備え付けられ、大声を出す必要さえなかった。最も大型化した車内では、戦車長の位置からではとても操縦手に足は届かなかったが。
 不和大尉は自分の勘だけを信じて合図を送った。操縦手はすぐに戦車を停止させた。急停止した五式中戦車の中で乗員たちは急減速の衝撃に耐えた。
 それにわずかに遅れてスターリン戦車から発射された砲弾は五式中戦車の前方に土煙を上げただけに止まった。五式中戦車の機動性に幻惑されたのか、はるか彼方に土煙を上げた砲弾もあるようだった。
 不和大尉が再び何か言う前に、操縦手は五式中戦車を急発進させた。後続車もそれに追随する。
 全弾を外されたスターリン戦車部隊は苛立ったように車体を震わせ回頭を始めた。五式中戦車を追随するつもりらしい。
 だが横陣をとった戦車部隊が進撃方向を急転換させるのは難しかった。単縦陣の場合は車体の向きごと変えるだけで済むが、横陣のまま進行方向を変える場合、内径を回る車両と外径を回る車両との間に速度差を設けないとうまく陣形を維持することが出来ない。
 これがさらに複雑な楔形になると方向転換だけでもかなりの錬度が必要になる。突出する車や落伍車が出てもおかしくは無い。そしてソ連軍の戦車兵は技量に優れているということで有名なわけではなかった。
 不和大尉の予想通りソ連軍戦車部隊は方向転換に戸惑っていた。一両だけ突出するなどはまだいい方で速度見積もりを間違えて遼車と激突する戦車もあるようだった。基本的にソ連軍の戦車部隊は横一列での突撃を前提としている。複雑な陣形に対応できなくとも不思議ではない。
 だがいつまでもソ連軍の指揮官も混乱してはくれないようだった。楔陣形の中側にいたT−34から一斉に乗車歩兵が飛び降りると身軽になったT−34が一斉に五式中戦車に向かって来た。
 五式中戦車部隊に後方に回りこまれることを嫌ってT−34で足止めをするつもりだろう。すでに五式中戦車が四式重戦車ほどの火力は持たないことは知られているだろう。それならばT−34でも足止めは十分に可能だった。機動性に限るならT−34は五式を上回っているのだから。
 T−34でも側面からの攻撃なら五式中戦車を易々と撃破することが出来る。しかし不和大尉はそんな光景を見て笑みを見せただけだった。
 不和大尉は通信機をいじってからマイクに向けて言った。
「オアよりミドリ、見えているな」
「見えています」
「攻撃目標は」
「スターリン側面を」
「撃て」
「中隊撃て」
 通信が終わるか終わらない内に、甲高い長88ミリ砲の砲声がスターリン戦車の向こう側から鳴り響いた。わずかに遅れて側面を貫かれたスターリン戦車が一両爆発した。他にもエンジンでも破壊されたのか白煙を吐きながら惰性で進むものもあった。

 突出していた一両のスターリン戦車は履帯を吹き飛ばされた。急に右側に抵抗が出来たそのスターリン戦車は急回頭を始めた。だがその回頭はすぐに止まった。動きの止まったそのスターリンに砲撃が集中したからだ。数発の88ミリ砲弾を食らったスターリンから戦車兵たちが逃げ出した。
 逃げ出した戦車兵たちは自分たちを攻撃した戦車部隊を確認した。最初に攻撃してきていた戦車部隊のさらに後方にその部隊は控えていた。戦車壕にこもっていたからこちら側からでは正確な数をつかんでいなかったのだろう。
 そしてソ連軍への攻撃は先行部隊のみが行った。後方のこの部隊は最後の瞬間まで攻撃を自制し続けていたのだ。そう、重装甲のスターリン重戦車が無防備に側面をさらすその瞬間を待ち続けたのだ。
 前線帰りの同僚から聞かされたドイツ人どもの陣形を試して見ようなどと安易に考えるのではなかった。ドイツ人も日本人も戦争に魅入られた悪魔だ。ソ連軍指揮官は忌々しそうに舌打ちすると生き残った部下と一緒に一目散に逃げ出していた。
 彼には戦場で戦死するのとシベリア送りとどちらがマシなのか、まだ結論が出たわけではなかったのだが。


    1945年 8月13日 チチハル郊外

 第二中隊の参戦によって戦闘の趨勢は決していた。指揮官車を撃破され浮き足立っているソ連軍に勝ち目はなくなっていた。
 不和大尉車を先頭とした第一中隊がソ連軍の側面に回りこむことに成功したことでそれは確実になった。誰かが指揮権を掌握したのか、ソ連軍は一目散に逃げ出していった。乗車兵や戦車兵の死体や負傷者は置き去りにされていた。
 本来なら直ちに追撃を行いたいところだったが、こちらも無視できない損害を受けていた。
 距離1000でスターリン戦車からの直撃を受けた副官車は、正面装甲をまともに貫かれていた。運が悪かったとしか言いようが無い。
 それに迂回機動中に側面を貫かれたのが一両、足回りを吹き飛ばされて機動不能となったのも一両あった。幸いなことに第二中隊にはほとんど損害が出なかったようだ。見てみる限りでは撃破された戦車はいないようだった。
 不和大尉は中隊を停止させて周囲の警戒に当たらせると、監視塔から身を乗り出して第二中隊長に通信をいれた。やはり第二中隊に損害は出なかったようだ。不和大尉は生存者を救出すると二個中隊を再び前進させることにした。
 わずかに生き残った戦車兵たちが三々五々といった様子で遼車にしがみ付いた。本隊と合流すれば彼らは連隊本部に預けられることになるだろう。いつまでもソ連軍のように戦車の外にぶら下げていくわけにも行かない。不和大尉は再び車長席に身を埋めるとこれからの行動を考えた。
 戦闘そのものは短時間で終了したが、待機時間も考えると本隊からだいぶ遅れている。本隊がある程度迂回機動をとっていることを考えてもチチハルに突入する前に合流するのは難しそうだった。
 だがそれは進撃がうまくいった場合の話だ。旅団司令部はソ連軍の防衛部隊と衝突するのはチチハル市街地の外縁あたりだと考えていた。戦車を中核とした機動力のある部隊があれば今の戦闘のように機動防御を行ってくる可能性もあるが、チチハルのような戦線の後方におかれた都市にそんな部隊を駐屯させている可能性は低かった。
 あるとすれば前線に移送中の部隊を急遽迎撃に向かわせる可能性だ。だが生半可な戦力では旅団を阻止するのは難しいだろう。不和大尉たちが壊滅させた部隊からそのことが伝わればまともな指揮官ならそう判断するはずだ。その場合、戦車部隊があっても都市防衛部隊の予備として手元においておく方を選ぶ可能性が高かった。

 だが不和大尉たちがわずかに前進するとすぐに旅団の本隊が見えてきた。不和大尉は首をかしげた。ソ連軍の防衛部隊と接触したにしては位置がやけにチチハルから離れているような気がする。それに兵たちに緊張感はあまり見られない。
 不和大尉たちが旅団本部近くで停車するとすぐに本部中隊の兵が駆け寄ってきた。中隊長は全員呼ばれているらしい。不和大尉と第二中隊長は顔を見合わせると合点がいかない様子で旅団司令部に向かった。
 旅団司令部は一式装甲兵車を改造した指揮車に置かれていた。勿論、旅団の全中隊長を集めれば十人以上になるから指揮車の外に円陣を組むようにして集まっていた。
 不和大尉がさりげなく円陣に加わると後任の同僚がさりげない様子で状況を説明してくれた。どうやらチチハルに潜入していた機動旅団の士官が合流したらしい。つまりこの召集は判明したチチハルの様子を実施部隊に説明するためなのだろう。
 だが不和大尉は不機嫌そうな表情で同僚にいった。
「馬鹿馬鹿しいな。その士官はいつチチハルを脱出してきたのだ。その情報は古くなっているかもしれないじゃないか。そのくらいなら旅団が全力で市街地に突入してしまった方がいい。遅ければ遅くなるほど露介が防衛体制を整えてしまうだろう。旅団司令部はそんなこともわからんのか」
 中隊指揮官が言うにしては過激すぎる批判だったが、同僚は何も言わなかった。彼もおそらく同じ気持ちだったろうし、少なくとも機甲戦について不和大尉を越える経験を持つ指揮官は少なかったからだ。
 唐突に指揮車の扉が開くと旅団長と何人かの幕僚が出てきた。そこに不和大尉は見慣れない顔の少尉を見つけた。おそらくその少尉が機動旅団の士官なのだろう。自然と不和大尉はその少尉をにらみつけていた。
 その少尉の視線は居心地悪そうにこちらと指揮車の中を行ったり来たりとしていた。ふと嫌な予感がして不和大尉は指揮車の中を覗き込もうとした。だがそれよりも早く指揮車から辻中佐が出てきた。
 辻中佐が旅団長にうなずくと参謀長が円陣の中に一歩入っていった。
 参謀長が説明する内容を聞くにしたがって不和大尉は呆気にとられていった。どうやら機動旅団の士官が訪れたのは単に情報を伝えに来ただけではないらしい。市内にいまだ残留する特務機関との連絡のために訪れたというのだ。
 強力な無線機をもって市内に潜伏する特務機関員から情報は時々刻々と変化しているソ連軍部隊の配置を細かく伝えてきているらしい。情報が古くなるどころではない。こちらはソ連軍の配置を手に取るように分かるということではないか。
 だが不和大尉はふと眉をしかめて言った。
「その特務機関員が本物であるという証拠はあるのですか。それに本物だとしても脅されている可能性もある」
 顔を見合わせながらも、他の中隊長や大隊長の何人かも不和大尉に同調するよううなずいた。あまりにもタイミングが良すぎる話だったからだ。
 参謀長は顔をしかめると辻中佐に振り返った。辻中佐は笑みを浮かべながらうなずくと参謀長に代わっていった。
「諸君らが参謀本部直属の特務機関を信用できないということは理解している。だが連絡をつけてきたのは私の個人的な友人でもある男だ。勿論いままでの通信から彼が脅迫されているわけではないことは分かっている」
 そういうことではないのだが、不和大尉はそう思っていても口に出す気が失せていた。何故かは分からないが辻中佐に対しては何を言っても無駄だ、そう思ってしまうのだ。
「そこで判明している敵軍の配置を逆手にとって、戦車一個中隊程度を中核とした支隊を臨時編成し警戒の薄いチチハルの反対側から突入する。それまで主力は敵主力部隊を拘束するものとする。よろしいですな」
 最後は旅団長に言った言葉だった。旅団長は重々しくうなずいた。だがそれが格好だけのものであることは明白だった。元々教導戦車旅団や機動旅団は関東軍直属として編成上おかれている。その為に関東軍参謀部とのつながりが極めて深かった。実質上旅団の指揮官は辻中佐であるといっても過言ではなかったのだ。
 不和大尉は大きくため息をついた。こうなったら辻中佐の作戦が今度もうまくいくように祈るしかない。まったく面倒な話だった。



戻る 次へ
inserted by FC2 system